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明け方、夢を見た。
女神様が「ラント卿!ありがとね〜ブツッ」って言う夢だったが。
恐らくリリベル嬢がちゃんと“神々の思惑”を達成してくれたんだろうと悟った。一体、何だったのか?気にはなるが、また帰りの旅で聞けばいいだろう。
それに恐らく面倒な事だったんじゃないかという気がするのだ。
リリベル嬢の護衛、というかお守りは本当に大変だ。
だがあの令嬢は何だかそれ以上のものを背負っている気がする。でもそれに気付かず何だかんだ言いながらケロッと人を助ける。だから皆が手を貸したくなるし、神々も彼女が好きなんだろう。
リコに言われた通り確かに世界が広がった。それに色々、耐性も付いた?付けさせられた気がする。
早朝、火山の国の皆様が南の国から撤収すると聞いたので、リリベルはテントまで向かうと王配様が待っていた。
「やあ、おはよう。来てくれると思ってたから、待っていたよ」
「王配様、おはようございます」
「君にお礼を言わないとな。君の望みと共に私の望みまで叶えてもらった。そしてお土産までもらったしな」
王配様は赤毛リストをヒラヒラさせた。
「その中に、私の護衛のリコピンも入ってますけど国王陛下も入れちゃってます」
「ハハハッそうか。掻き集めたんだな。さすがに国王は除外だな」
「お勧めは第二王女殿下です。御歳1歳なので王子殿下にピッタリかと」
「そうか。王女が我が国に来てくれるかな。楽しみだが頑張らないとな」
「南の王太子殿下も頑張って我が国の王女殿下と婚姻なさいました」
「そうか。彼はずっと独身だったからな〜。だが、ただの酷い面食いだったんだな」
ちょっと違うが、まあ間違いない。
「西の女神様は一途で頑張る人を応援するんだな。息子にもちゃんと言っておくよ。ぜひ我が国にも遊びに来てくれ。今度こそ招待するよ」
「ありがとうございます。王配様、これお土産に持って行って下さい」
リリベルが王配様に手渡すと王配様はとても驚かれた。
「わっ何だコレ?魔石じゃないか!しかも水属性?!」
「これで氷作って、テキーラ飲んで下さい」
「えっ?マジで言っているのか?テキーラだけに使う物じゃないだろ!」
「その令嬢は、まだジャラジャラ持っているので「どうも」って言ってもらってやって下さい」
「ああ。君も北の騎士ではないんだな」
「私は西の女神と神殿を守る聖騎士です」
「ああ、その白い制服は噂に聞いた事はあったんだが、そうか国の騎士とは違う、聖騎士か。だが妖精?君の護衛は赤毛の年配の騎士では?」
「今回、スネイプニルで来たので、ラント卿に護衛を依頼したんです。彼は第三王子殿下の兄君でもあるんです」
「そうか!では王子なのか?」
「私は王族の身分も王位継承権も返還しましたので、今はただの聖騎士です」
「そうか。すごい助っ人をたくさん付けて君は来たんだな。俺達は老害しか連れて来なかった。勝敗は最初から決まっていたんだな」
王配殿下はそう仰って魔石のお礼にテキーラをリリベルに渡して火山の国の皆様と戻って行かれた。
「私の分は?」
ラント様は多分、飲むと本音が出る人だ。実は辛口なんだよザック殿下。
あれから住宅地のダイナミック・バナナの店は直ぐに見つかり、中の石化されたオジサン達も回収された。
近隣の人の話によるとバナナの販売所だと思われていたそうだ。
確かに大量のバナナもあったし実際、販売もしていたみたいだ。だから薬品のバナナの匂いもバナナ屋だからだと思われていたらしい。
ダイナミック・バナナは、やはり麻薬に近い薬物で眠気や気持ち良くなる成分があり、常用すると意識障害や幻覚が見える危険な薬物だった。
特に甘い香りからお菓子やお茶に混ぜる事もでき、女性や子供も危険に晒される恐れがある為、薬品も材料もあの場にあった物は直ぐに全て焼却処分されたそうだ。
ザック殿下があの場所に運ばれたお陰で、危険薬物の製造と販売も防げて、危険薬物が広まる前に取り締まれて良かったと、南の国には感謝された。まあ、ほとんどは偶然にバナナだったお陰で、好物のバナナに反応したサオリの手柄みたいなものだけど。
そして私達も帰国する時になった。
ザック殿下はスネイプニルに乗れるようになった事で私達と帰りたい!とごねた。
久しぶりの殿下の我儘だったので、西の砦までスネイプニルで向かい、砦からは補佐官達やリコピンと馬車で帰る事になった。
たった1日のスネイプニルでの移動だが、ザック殿下は我儘が通ってとても嬉しそうだった。
「スネイプニルに乗れるようになったんだってな〜良かったよな〜嬉しいよな〜」
王太子殿下に小突かれながら、たくさん嫌味を言われていた。
王太子殿下も案外子供だ。
「じゃあ!これからはもっとこっちに遊びに来れるわね?」
第二王子妃様に言われたが、それとこれはきっと話は別だ。
スネイプニルは北の陛下が一時的に貸してくれたに過ぎないのだ。サオリ達は、きっとまたどこかに行ってしまう。
子爵領にも白馬達はいるが、彼らに鞍を載せて乗りたいわけでも飼い慣らしたいわけでもない。彼らは既に自由な馬達なのだ。
でも道が完全に整備されたら、きっと南への移動はもう少し短縮できるはずだ。
「ねえリリベル嬢、贈ったユカタは気に入ってくれた?椿の髪飾りが可愛かったでしょう?」
「あ、はいありがとうございました。まだ二人で着れていないのですけど」
学院祭で貸し出しに使っちゃいましたとは言えない。
「椿の髪飾りはザック君が選んだの」
「え?」
「花言葉を知っている?」
「いえ、調べようとしたのですが忙しくて…」
「そうでしょう?なかなか椿は知らないわよね。椿自体には謙虚で控えめっていう意味があるの。でもそれはちょっと違うわよね〜」
確かに私に謙虚で控えめは当てはまらないだろう。
本来はその路線で学院生活を送るつもりではあったのだが…。
「でもね赤い椿だと気取らない優美さや謙虚な美徳とか、そういう意味になるの。あなたって確かに美しいのに気取らないし、自分の能力に謙虚なところがあるわ。多分、それを言いたいのかなって思ったの。ザック君はそんあなたが好きなのね」
ザック殿下は花言葉まで知っていて選んだのだろうか?だとしたら、ちょっと照れる…かなり照れる。
普通に愛の言葉を意味するバラやチューリップよりもジワジワ来る気がした。




