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まず、ザック殿下を誘拐したのは間違いなく火山の国の者達で、恐らく主犯は宰相の弟のオジサンである事を伝えた。
その際に“ダイナミック・バナナ”という薬物が使用され、ザック殿下と護衛の武士が長時間意識のない状態にされた事、また王都を出た郊外の住宅地にダイナミック・バナナを製造販売している店があり、そこが彼らのアジト兼、隠れ家になっていた事を付け加えた。
そして犯人の当事者達は神の怒りに触れて、全員が石になっているので現場を押さえて、彼らを回収して欲しい旨、伝えると王太子殿下の指示で武士様方が直ぐに現地に差し向けられた。
それらの事を事情聴取としてやり取りした後で、王太子殿下は火山の国の女王陛下に発言を求めた。
南の国側としても我々としても、謝らせるより謝って欲しいのだ。
女王陛下は立ち上がり、ちゃんと頭を下げた。
あの気高い女王陛下が頭を下げるだけでも凄い事だと思う。
だが火山の国はそれだけの事を我々にも南の国内でもやらかしたのだ。
「この度は西の第三王子殿下に対し、我が国の者どもが度重なる呪いや呪物を仕掛けて心身共に負担をかけたわ。そして他国の王族に対して危険な薬物を盛り、誘拐までした事を国の代表者として謝罪致します」
誠意のこもった丁寧な詫びだった。
「更に南の王城内にも手当たり次第、呪物を仕掛け、南の者への危険薬物の使用と、南の国内での薬物製造、販売を行っていた事、南の国にも深く謝罪致します」
女王陛下は南に対しても頭を下げた。
「今後、信頼回復は直ぐには難しいでしょうけど、まずは誠意としてリリベル嬢、そこのあなたの提案を全て飲むわ。更にお詫びの品々を後日、西の国に送らせてもらう」
「女王、リリベル嬢の提案とは内容は何だ?」
女王陛下は周囲に視線を巡らせると宣言するように仰った。
「私は今後、王配以外の配偶者は持たないわ。それを、そこのお嬢さんに誓うわ。だから西の第三王子殿下への縁談も必然的に取り下げる事になるわね。ただし我々も失うばかりではない。代わりになる物も頂戴したのよ。だからそれで満足するとするわ。」
「そっそうなのか…」
王太子殿下は殊勝な様子の女王に少し面食らっているようだ。
「そうよ。それで王太子殿下、南の国への賠償はどうしましょうか?もちろんこれまでの農作物や魔力石の取り引きは通常通り行うわ。ああ…でも魔力石は原価で譲るわ。それ以外にご希望は?」
「いや。それで十分だ。原価での取り引きも期限を設けよう。我々は過ぎた謝罪も好まない」
「そう。ありがとう。ねえ我々の国の重鎮どもだけど神罰で石になってしまったの?」
女王陛下は再び、リリベルに聞いてきた。
「はい。ですが解呪は可能かと」
「そう。あなたは神獣も従えていたのだったわね。最初から勝てる戦ではなかったのね。西の女神は一途で頑張る人を応援するのね。成程分かったわ」
と全てが吹っ切れた涼しい笑顔で仰った。
リリベルとザック殿下はそこで退出して来た。
あとは大人達が話し合う時間だ。王女殿下もくっ付いて来た。
「ザック君、良かったね。おめでとう。そう言えば君の護衛をしていた武士もちゃんと元気に戻ったよ」
「そうか。安心したよ。ありがとう」
王女殿下は城内に戻って行かれたが、私と殿下はサオリ達の様子を見に厩舎に行くと、ちょうどラント様が2頭に水遊びをさせてらっしゃった。
2頭は南の国に来てから気候が温かいので、すっかり水遊びにハマったようで毎日ねだられる。
「終わるまで待っててくれ」
そう言われて二人でサオリ達を見ながらイスに座る。
そういえばリリベルはずっと気になっていた事をザック殿下に聞いてみた。
「ザック殿下、殿下方ご兄妹はお母上が違うのに全員、ラント様が大好きですよね?どうしてですか?」
「ああ、ラント兄上は最初王子宮に居たんだ。俺は小さいからいつも、直ぐ上の兄上を追いかけていたんだけど、兄上はすでに俺が物心つく頃にはラント兄上が大好きだった」
「一つ違いで年が近いから?」
「それもあるだろうけど兄上が言っていたんだ。ラント兄上はいつも俺達に遠慮なさっているって。それにいつも少し淋しい笑顔をされているから笑わせないといけないんだって。だから俺も一緒になってまとわりついていたら、いつしか姉上も兄上にまとわりついていた」
逆に迷惑じゃなかったのだろうか?ラント様は静かな人の印象だけど。
「それにとても優しいだろ?困った顔をしながらも面倒見てくれるんだ。そんな顔してても絶対、最後まで付き合ってくれるんだよ。だから大好きなんだ。でも姉上の人形遊びは可哀そうだったな〜」
ラント様の人形遊びは、かなり見たいが、もうリリベルも新しいラント様はたくさん見た。
「ちゃんと女神様のお願いも叶えて来ましたよ」と報告したら喜んでくれるだろうか?
それとも「ズルい自分も立ち会いたかった」って仰るだろうか?
仰ったらマリィ姉ちゃんへの協力をエサに、許してもらう事にしよう!




