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サオリが“バナナに惹かれて来た訳ではない”という証拠にペンは「ここだ!」と言わんばかりに眩しく光っている。
だが、これからどう動くか?
店の入口の前には数台停めることができる馬車止めがあって、入口の照明は消えている。窓は鎧戸が完全に閉まっていて中も見えないし灯りも漏れてこない。
裏にも入口がありそうだ。
裏に回ると馬車が一台止まっていたので近付くと、バニラとバナナの香りがする。間違いない!この馬車にあの武士様は乗せられていて途中で道に置き去りにされたんだ。
じゃあザック殿下もここに?
ペンは光っている。店の正面では点滅したので裏から入れということなのか?裏口の扉のノブを回してみる。
「えっ?開いたんですけど…」
もしかして罠?じゃなければ不用心だ。
リリベルはそぉ〜っと中を覗く。中は真っ暗だがペンが光っているので薄っすらと見える。どうやら倉庫のようだ。たくさんの木箱が並んで積み重なっている。
リリベルが静かに入るとサオリも着いてくる。
「ちょっとサオリ?中まで来るの?」
サオリはリリベルを追い抜いて木箱に直進して頭を突っ込むと、バナナを咥えて「見つけた!」と言わんばかりでリリベルを見る。
「私はザック殿下を探すから。サオリはバナナを食べててね」
サオリには、ちょうど良いご褒美になったかもと思って倉庫の奥の扉に進むと、また扉は簡単に開いた。
もしかしてただのバナナ倉庫?でも何でペンは光るのか?
簡単に開いた扉の中の様子を見ると、いた!ザック殿下が縛られ毛足の長い絨毯の上に寝かされている。
意識は無いのか動きがない。やはり武士様のように薬を盛られているのかもしれない。
室内は殿下だけではない。女王に侍っていたオヤジ達と恐らく内通していた使用人や店の人間と思われる人達が何やら密談をしている。
会話は全く聞き取れない上に、火山の国の言葉で喋っているようで、さっぱり理解できない。それに人数も多い。
だが騎士や傭兵らしき武力に特化した人はいなそうだ。
どうしよう?リリベルが考えていると、奴らは殿下の見張りを一人置いて、更に奥の部屋に消えて行った。
もしかして今日はもう就寝する感じ?マジか!
自分達が追っ手を撒けていると思っているの?
確かにリリベルがいなければ、今の時点では見付かっていないけれど…それでも楽観的過ぎないか?!
それに見張りはこの店の使用人のようで下っ端の若い男だ。
今、西の令息達の間で流行っている「実は脱ぐとスゴい人」だったりして?と思いながら入室して、見張りが「誰だお前?!」となっている間に腹に一発お見舞いする。
見張りは「ゴフッ」と言って伸びた。
ただの普通の人だったみたいだ。
リリベルはザック殿下に駆け寄る。縄を解いて状態を確認すると呼吸も脈もちゃんとあるし外傷も無い。
だけど殿下からは、やはりバニラとバナナの匂いがする。
きっと意識を奪う薬物なんだ!
リリベルはザック殿下に浄化魔法をかけて様子を見るが、まだ直ぐには意識は戻らない。暗くて顔色も分からない。他にも何か呪いの影響を受けているのではないか?
「殿下…」心配で涙が出そうになる。
そこにサオリがバナナを咀嚼しながら入って来た。
「サオリ…シリアスに浸らせてもくれないのね?」
サオリはリリベルに近寄って横になっているザック殿下を見ると、いきなり片足で殿下のお腹を踏み付けた!
「あっ!」っぶね〜もう少しで大声で叫ぶところだった。
咄嗟に口を抑えた自分は偉い。
「何してんのサオリッ!!」小声で叫ぶと、ザック殿下が「グフッ!ゴホゴホ」って何かを吐いた。
慌てて殿下の体勢を横に向けて吐物を再び飲み込まないようにする。そして背中をさすっていると殿下の意識が戻ったのか「グェッ気持ち悪」って言いながら上体をゆっくり起こした。
リリベルは殿下を支えるとポーチに入れていたハンカチで殿下の口の周りを拭ってから「殿下!待ってて!」と室内にあったコップを浄化して魔法で出した水を入れて殿下に飲ませる。
殿下は水を飲んで落ち着くと「リリベル嬢…来てくれたのか?」と仰った。
リリベルは殿下を抱き締めるのに精一杯で返事が出来なかった。
リリベルの腕の中でザック殿下が「ゴメンな。心配かけて」って呟いた。
転がしていた見張りの男が一瞬起きそうになり、サオリが一撃食らわしているのを見て「サオリも来てくれたのか」と言うと、サオリは「ブルルッ」と返事をするように鼻を鳴らした。
「ここがどこだか分からないが、俺、攫われたんだろ?よく見つけてくれたな」
「ペンがね。光って教えてくれたの」
「ペンっ!」
ザック殿下が胸ポケットを探ると殿下のペンも光っていた。
「リリベル嬢!ペンだけじゃないっ、君の提げているポーチも光ってる!」
リリベルがポーチを見るとポーチの中身が光っているようだ。
そう言えばペン以外に青薔薇の栞、髪留めも入れていた…。
リリベルは急いでポーチから栞と髪留めも出すと3つはいきなり眩しいくらいに光り始めた。




