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リリベルは王城を出て街に入る前に、一旦、馬から降りてサオリに話し掛ける。
「サオリ、アイザック殿下は分かる?赤い髪の王子なの。そう、あなた達が興奮しちゃう髪の色なんだけど、彼が悪い奴らに攫われちゃったのよ。探して助けなきゃいけないの。多分ね神様が作った同じペンを持っているから、きっと呼び合うと思うの。そうよ、このペンよ。分かる?」
サオリはペンをジッと見つめて何か考えているようだ。
その間リリベルも考える。アイツらは殿下を攫ったらどうするか?国に連れ去るのが一番想像できるけど、それでは直ぐ捕まってしまうのではないか?
火山の国の国境までは5日だ。奴らが到着する前に国境を封鎖する方がきっと早い。だったらどうする?逃亡を手引きした人間がいるのなら隠れ家もあるのでは?
ザック殿下は大事な人質だし、彼らからしたら貴重な赤い髪だ。
それに数時間前の出来事で時間も経っていない。絶対にまだ王都近辺にいるはず。
隠れ家にするなら…この国の呪い屋、スパイス屋、カレー屋、火山の国に関連のある場所は?だが土地勘の無いリリベルには分からない。ペンは特に何も反応は無い。やっぱりペンでは探せないのか?
そう思っているとサオリが「乗れ」とリリベルに仕草で伝えてくる。何か分かったのだろうか?
「サオリ、何か分かったの?ゴメンねサオリにしか頼れない」
サオリは何か目標を定めたのか走り出した。
少し走ると南の武士様が道端に倒れていて、人だかりができていた。リリベルはサオリを離れた所に待機させて人だかりに走り寄る。
「その人は私の知人を守っていた武士なの。どうしてここに?」
周囲の人に尋ねる。
「さっき通りがかった馬車から、投げ出されたみたいなの」
「王城の武士の制服だから、どうしたのかと思って」
「どれぐらい前ですか?」「ほんの5分くらい前よ」
「馬車はどちらの方に?」「あっちの道を行ったわ」
「ありがとうございます。よろしければ助けを呼んで下さい」
と言ってリリベルは武士様の様子を見る。
外傷は無いが何か薬物を使われたのだろうか、彼から香料の匂いがする。色々混ぜてあるのだろう薬物を特定する事ができない。
でもバニラとバナナが混じったような甘い匂いがする。
リリベルは浄化魔法を彼にかける。薬物ならこれで回復する。
「この方は王城の武士様なので王城に連絡をお願いします」
助けに来てくれた街の警備の人に伝えているとサオリが近寄って来て、倒れている武士の匂いを嗅いでいる。
「サオリ、何か分かる?」
リリベルは再びサオリに跨るとサオリは伝えていないのに教えてもらった道を進む。何か分かったのかもしれない。
時々、止まって周囲の匂いを嗅いでいるようだ。
もしかしたら武士様に使われた薬物の匂いが残っていて、その残り香を探しているのかもしれない。
「サオリ、あの武士様の匂いを探しているのね?だったら風の魔法で空気中の匂いを探るわ。あなたが大好きなバナナの香りだものね」
リリベルは魔石を使って空気中の様々な匂いの中からバナナに近い香りを集めて匂いの先を探す。自分には微かにしか分からなくても、サオリはもっとはっきり分かるんだ。
サオリが動き出す。香りの先が分かったのか?
街を外れて街道に出るとサオリがスピードを上げる。急がないと匂いを辿れない。今日中に追い付かないと!陸路なら王太子殿下がきっと国境を封鎖してくれている。でも海路なら?だが南の国は横に長い。東西の港までは陸路より遥かにかかるはずだが。
王都から外れるとサオリが急に止まった。
「サオリ?どうしたの?」サオリが首をリリベルに向ける。
何かを訴えているようだ。
「何か気になるのね?ん?私が提げているポーチね?」
もしかしたらペンに何か反応が?
「わっ!サオリっ光ってる。やっぱり私のペンはザック殿下のペンと繋がってるんだ!」
そう言えばラント様は「ペンや栞、髪留めをドラゴンの影響の無い場所に」って仰っていた。
そうかドラゴンの影響下では力が発揮できないんだ!
「これからはペンも辿って行けるよ!サオリ」
ペンは眩しく光っている。道が違うと点滅するらしい。サオリもバナナの匂いをまだ辿っているようだ。
「サオリ、そっちは点滅するんだけど。こっちって」
だがサオリはお構いなしに行ってしまう。
「サオリ〜っ帰ったらバナナあげるから〜」
ペンがまた光り出す。
「近道だったの?分かった。サオリを信じるから」
サオリは郊外の住宅街に入ってからもペンが示す道を無視して進む。近道なら有難いけど、人ん家のお庭やテラスに不法に「失礼します!」が何度もあってヒヤヒヤした。
だがザック殿下救出の為だ!ゴメンなさい!
とうとうサオリが一軒の住宅の前で止まる。
「サオリ、ここなの?」
何かの店らしいが、もう夜なので閉まっている。ん?西の言語じゃん。
看板に“ダイナミック・バナナ”と書いてある。
一体何の店?!そしてバナナって…サオリ、本当に合ってるの?




