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「ルドベキア、私は小さい頃から君だけを見ていた。王女の君の側にいる為に必死で頑張った。そして君が私を王配に選んでくれた時は天にも昇る気持ちだったよ。君は他にも配偶者を選べるからと、そういう気持ちで最初に私を選んだ事は分かっていた。それでも君の側に居れたらそれで良いと思っていたし、私一人では満足しないんだろうと諦めてもいたんだ。だが、これからは私だけを見て欲しい。私も君だけだ。絶対だ!約束する。だから子供をたくさん作って頑張ろう。なあ?」
ルドベキアって女王陛下の名前?真っ黄色の花の名前だ!瞳が黄金だから?
女王より花が可愛い過ぎてイメージじゃないんだけど。
「‥‥‥」女王陛下は俯いている。
どうしようかと考えているのだろうか?
提案はもうしたし、後は二人に考えてもらうしかない。
だからここは一旦、戻ろうとお二人に声を掛ける。
「私達、一旦、戻らせて頂きます」
「そうか。返事はまだ待ってくれるか?」
リリベルが頷くと王配様はホッとしたように微笑んだ。
だがその時「リリベル嬢、まだここに居るか?大変だ!」と言ってラント様がテントに駆け込んで来られた。
「ラント様?どうされたんですか?」
「アイザックが攫われた!どこにも居ないんだ。恐らく君が出て来るのをテントの近くで待っていたようなんだが」
「殿下に護衛は?」
「南の武士が付いてくれていたのだが、そいつもいない!」
ラント様の知らせと同時に火山の国の騎士がテントに入って来た。
「女王陛下、王配殿下、大変です。宰相の弟君一派が脱走しました!」
「何ですって!」
まさか火山のオヤジ達がザック殿下を誘拐したのか?!
リリベルは急いでテントの外に出る。
女王や王配様、ラント様や皆も急いでテントを出て来る。
リリベルは咄嗟に叫ぶ「サオリー!!」
ドドドッと、もの凄い蹄の音をさせて、サオリがリリベルの元に走って来た。
リリベルは風魔法を使ってサオリに飛び乗る。
「お嬢!スカートだぞっ!」
「リコ!そうじゃなくて、リリベル嬢!サオリの鞍はいいのかっ?」
「間に合わない。このまま行く!」
「これを着て行けっ!」
ラント様が風の魔石のブローチが付いた聖騎士のマントをリリベルに着せてくれる。
「ラント様、ありがとう!」
「ザックの居場所は分かるのか?」
「ガラスペンがあるから!多分、何とかなる」
「そうか頑張れ!」
「うん。サオリお願い!」
そう言ってリリベルはサオリとあっという間に消えて行った。
「ラント、裸馬だったけど大丈夫なのか?」
「さあ?だが子爵領ではいつも裸馬だったから」
「はあっ?!」
「白馬の王子様じゃなく…何かしら?」
「おい女王、お嬢に何かあったら覚悟しろよ?」
「アイザック王子じゃなくて?」
「分かってないねぇ女王陛下は。その黄色の瞳は、本当にただのトンビの瞳なんじゃないの?」
「王女!」
「ビーバーちゃんは西の女神だよ」
「はあ?!」
「そうか。だからあんなに慈愛に満ちてるんだな」
「ちょっと!あなた信じるの?」
「私は彼女とここ最近ずっと語ってたんだぞ。どんな子か分かる。だが途中までずっと少年だと思っていたけどな」
多分だけど西の女神も随分変わっている神だ。
とベルトラントはそう思う。
「ベルトラント卿、隅々まで探したが、やはり王城内にはアイザックは居なかった。恐らく護衛をしていたうちの武士も一緒に行方不明だ」
「王太子殿下、済まないな世話をかけて。だが大丈夫だ。リリベル嬢がサオリとザックを探しに行った。恐らく火山の国の呪いをかけた奴らがザックを攫ったんだ」
「何だと!」
「王太子殿下、本当に申し訳ないわ。我々のミスだわ。罪人が脱走したの。恐らく逃亡に手を貸した使用人がいたんだわ。私達が話し合いをしているスキに逃げたようなの」
「何て事だ…」
王太子は色々と女王に言いたい事がありそうだったが、グッと飲み込んでいた。先にこの件の解決が優先だと判断したのだろう。
「リリベル嬢だけに頼れない。それに彼女だけでは手に負えないかもしれない。我々も四方に武士達を捜索に回す。女王、奴らの行き先は火山の国か?」
「恐らく。赤い髪の第三王子殿下を連れ帰って、兄の宰相に許しを得るつもりなんだわ。こちらは私が連れて来た全員を今から集めて尋問するわ。まだ奴らの息のかかった者がいれば情報を伝えるから」
「至急、伝書鳩を国境へ飛ばせ、火山の国との国境を封鎖させろ!」
「王太子殿下!我々のハヤブサの方がきっと早い。火山側の国境にも鳥を放つ」
「王配よ、そちらの国境にも奴らの息のかかったスパイがいるんじゃないのか?信用ならないだろう」
「鳥を受けるのは私の部下だ。信頼できる者だけに情報を流すよう伝える」
「そっちはそっちで好きにしろ。こっちはこっちでやる」
そう言って王太子は戻って行った。
「ラント、我々はどうするか?俺も動きたいが土地勘もツテもここでは無い」
「侯爵家の南の商会を動かしましょう」
「補佐官、出来るのか?」
「実家の侯爵家の商会ですが、商会はリリの姉のララベルとリリの元侍従がやっている。彼らは土地勘もツテもある」
「マレシオン公爵令息にも直ぐ連絡をするわ。外交官の子爵は今、彼といるの」
「そうか…彼は妻と公爵家と板挟みか…気の毒に」
「エリオット!今はそんな事言っている場合じゃないでしょう?!」
「ああ直ぐ動くよ」




