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翌朝、火山の国のテントの一角で事件が起こった。
「女王陛下、宰相様の弟様と重鎮方のテントで異変が!」
「どういう事?」「恐らく呪い返しかと」
「何ですって!?直ぐにテントに向かうわ!絶対に南にも西にも悟らせないでっ!」
だが女王陛下がテントに駆け付けた時には遅かった。
すでに王太子を筆頭に南の武士達がテントを囲み、西の神官と補佐官達が立っていたのだ。
「あら?皆様おはよう。お早いのね?何かあったのかしら?我々のテントだと分かって動いてらっしゃる?」
さすが女王だ。若くても凄味がある。
「昨晩、君らが仕掛けたと思われる呪いを返させてもらったんだ。かけた当人に目がけてね。君らは散々、呪いに関して心当たりは無いと言っていたが、返した後、君らのテントを見張らせてもらったよ。それでこの結果だ」
火山の国の年配の重鎮達が何かに取り憑かれたように青い顔で唸っている。明らかに呪いが返された症状だった。
「もう言い逃れは出来ないだろう?」
「王太子殿下、そちらの者達は私の命令に背いて勝手に呪いを行ったのだわ。もちろん、もう言い逃れはしないわ。だけどこの者達の中には王族もいるの。だから処罰は我々に任せて貰えないかしら?もちろん全員、重刑に処すし、どのように処したか、そちらにも知らせるわ」
女王は一切、顔色も変えず動じた様子もなく淡々と伝える。
もしかすると、こういう事もある程度予期していたのかもしれない。
リリベルも風魔法で気配を消して少し離れた場所からザック殿下と見ていた。
「この者達の処分に関しては良いだろう。だがっ…」
ああ駄目だ!王太子殿下にこれ以上、発言されたら女王陛下が皆の前で立場を悪くするだろう。
リリベルは飛び出して行って二人の間に入る。
「お待ち下さい!王太子殿下!無礼を承知で申し上げます」
リリベルは王太子殿下の前で跪いて伝える。
「私は女王陛下と話し合いをする機会を今日、得ておりました。この呪いは南ではなく西に向けられたもの。先にこちらと話し合いをさせて頂きたいのです!その後に王城内に呪いを仕掛け、南も巻き込んだ火山の国の責任追及を有利にお進め下さい」
王太子殿下はリリベルの気持ちを直ぐに察して下さった。
「そうだな。先にそちらが話し合うのが筋だ。リリベル嬢、立つと良い」
と仰って、女王陛下に再び厳しい視線を向けながら
「女王、そこの令嬢に助けられたな。令嬢の願いを可能な限り叶えてやれ。それを聞いてから火山の国の我々への謝罪を決める」
そう仰って王太子殿下は武士様達を引き連れて戻って行かれた。
女王陛下は無表情で立っていたが
「やられたわね。想定はしていたのよ。でも先手を取られたわ」
とリリベルを見てそう仰った。
リリベルは神官様に、火山の国のオジサン達の呪いの浄化を依頼する。
神官様は一瞬「良いのか?」という視線を女王陛下に向けたが、陛下が頷いた為、浄化魔法をかけて下さった。
オジサン達の呪いが解けた様子を見て、女王陛下は護衛様に「この者達をテントに監禁して頂戴。暴れたりしたら縛っていいわ」と命じて、次にリリベルに「このまま話し合いでも良いかしら?」と聞いてきた。
それでも良いけど…朝ご飯がまだだ。
「お腹空きました」と言うと護衛様に大笑いされた。
そしてリリベルはとっさに飛び出したので、リリベルが離れた事でザック殿下が丸見えになってしまった事をすっかり失念していた。
女王陛下は離れた所に見える赤い髪のザック殿下を見つけて「フッ」と口角を上げた。
残念だけど諦めるしかないわねと。




