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「ゴメン。俺が気付かなかった。まさかあの子が夏に来ていた火の粉の妖精だったとは…」
「男の子にしか見えなかったわね。でもあの瞳の色はそうそういないわ。あの子の姉もあの色なのよ。だから絶対に分かるわ」
「あの子が世話をしていたのは北の神獣のスネイプニルだ。だから北の女神をバックに付けているのは間違いないのだろうな」
「あの子は見習いじゃなくて、あの騎士はあの子の護衛騎士なのね」
「恐らくそうだな」
「それにアイザック王子の相手はあの子なのね。夏に見た時からそういう予感はしていたの。まさかあんな令嬢だったとは…見抜けなかった私のせいよ」
「それは仕方がない。だが事は拗れ過ぎた。見境なく呪いや呪いまでやるからだ。女王陛下、アイツらは切り捨てる時だな」
「そうね。西と南が出て来る前にやらないと、我々にも責任追及が来るわね。でもアイザック王子は欲しかったわ。可愛いし」
「悪い趣味が出てきてるぞ。酒の飲み過ぎではないか?アップルワインとはジュースのような味わいのクセに酔いやすいそうだ。しかもテキーラと混ぜた」
「毎日、悲壮感を漂わせて庭に座っていたそうね?」
「当然だ。妻の縁談なんて楽しいはずがない。私も気持ちは火の粉の令嬢側だぞ!」
「明日、あの子はどんな提案をしてくると思う?」
「おい!無視か?は〜。お嬢ちゃんの考えか?普通なら縁談の取り下げに対する何かの対価を提案してくるだろうが…」
「それは無いでしょうね。きっと対等に来るわよ」
「でも損はさせないと言っていた。きっと相手にも損はさせない子だ。あの子も優しい子だ」
「だから神々が味方しているの?」
「さあな。でも本当に純粋に俺の心配をしてくれていたんだと思う。しかもカレーや火山の国の料理や店にかなり精通していたぞ。一体、どうやって調べたのか」
「あの子の間者やスパイが我が国に?」
「だったとしても短時間では難しいし、距離があり過ぎる」
「ただいまー!お土産でーす!」
「わあ本当にもらって来たのか?」
「でかしたぞ!お嬢!夕飯を腹六分くらいで待っていて良かったぞ」
「ナンを温め直そう」
「皆様、お待ち下さい!一応、何か変な物が盛られていないか確認致しますわ」
急遽、ダイニングでカレーの夜食会みたいになってしまった。
リリベルとラント様はさすがにお腹一杯だ。女王陛下が来た後もしっかり手と口は動いていた。もちろん会話以外の飲食行為だ。
「このスープカレー最高だな。辛さも丁度いい。リリベル嬢、彼らのテントは危険な事は無かったのか?」
「うん。途中で女王が来て、私だとバレた時はちょっとヤバいってなったけどね」
「えっ?本当に?女王にバレたのに無事だったの?ナンよりもご飯がいいわ。スープに浸せばリゾットみたいよ」
「よくそれで普通に帰って来て、しかもカレーまでもらえたな?確かに僕もご飯派だな」
「しかも明日、話し合いにまで応じてくれたんだろ?スープに浸したご飯をナンに載せるんだ!」
「その炭水化物、ヤバ過ぎだぞ!リコピン。本当に大丈夫か?リリベル嬢」
「殿下?炭水化物の心配?それとも話し合いの方?」
「もちろん君の方だ!話し合いに決まっているだろう!このナンはカレーじゃなくてもいいかもな」
「確かに何かを巻いたり挟んだり。でもカレーあってのナンだからな。それで話し合いはリリだけで行くのか?」
よくカレーの話をしながらも話が進むな。
「うん。明日の護衛はラント様じゃなくてリコピンに来て欲しいの」
「なっ!リリベル嬢、もしかして怒っているのか?確かに少し飲み過ぎて辛口発言をした事は認めるが」
ラント様、自覚があるのか。
「いいえ、違います。リコピンに護衛をお願いするのは戦略です。それに明日は神官様を始め、皆様に別のお願いがあります」
「何だろうな?」
「念の為、風魔法で話し声が漏れないようにしますから」
そうしてリリベル達はカレーを食べながら明日について打ち合わせを行っていった。




