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「こっちで盛り上がっていると聞いたから顔を出してみたの」
「おお陛下、今日はお客さんがアップルワインを差し入れに持って来てくれたんですよ」
「そうそうナンまで焼いて来てくれた」
皆、女王陛下が来ても気さくに話し掛けている。ちょっと意外でビックリだ。
「まあ!ナンを?北の方なんでしょ?」
と言いながらリリベルを見て固まった。バレましたか…?
「ちょっとーっ!!何でここに火の粉の妖精がいるの?まさか、あなた気付かずにこの子をテントに招き入れたの?」
女王のもの凄い剣幕に護衛様だけでなくテントの皆様も驚いている。
「火の粉の妖精?まさかっ!彼は騎士見習い‥‥‥いや、そんな事一度も言ってなかったな。私が勝手に思い込んだ訳か…」
「女王陛下、まあまあ落ち着いて!それに火の粉は余計です。そりゃ妖精とはよく言われますけど」
「自分で妖精とか言うのか?図々しいな、実際は深い森から出てきた、ただの世間知らずのクセに」
ラント様?お酒のせいですか?ちょっと辛口になってますよ!
「お前!敵地で、なに悠長に座ってんのよ!カレーまで食べて!もしかして‥‥お前ずっと私達を見張ってたのね?そうでしょう?」
おぉ勘が良い。だが返事はしない。
「君はずっと我々をスパイしていたのか?私を利用して?」
厳しい顔で護衛様が私を睨む。でも怖くない。
「え?スパイス?それはそっちの料理だろう?」
ラント様?もしかしてテキーラ回ってますか?
だが、女王陛下もどうせ散々、呪いの件をトボけたんだろう。お互い様だ。
「護衛様が毎日、毎日、庭の隅で悲しそうにボーッとしていたから。声を掛けたのはスパイ行為ではありません。本当に心配だったのですよ?まあ飲みましょう?」
リリベルは魔法でグラスに氷をガガガッとたくさん出す。そしてテキーラをアップルワインで割って護衛様と女王陛下に渡そうとして「あ〜何も盛ってないですよ。ほら毒味」
って飲んでから渡す。
「おかしな物を盛るのは、そっちの専売特許だろ〜」
ラント様!いつになく辛口っ!?
護衛様も女王陛下もグラスを持ったまま無言で私達を睨んでいる。まだ警戒が解けないの?
「大体、護衛様が悲しい顔を毎日しているのは女王陛下のせいですよ」
と告げると女王陛下が更にリリベルを睨む。
「愛する王配殿下を悲しませてまで、ザック殿下と結婚しようだなんて‥‥二人の配偶者の悲しみの上に成り立つフェニックスは果たして国民の希望になりますか?」
「それ以上、無礼な発言をすると…生きてこのテントから出られないかもしれないぞ?ここにはお前達二人以外はこの国の者だ」
護衛様が低い声で脅してくる。
「私はあなたが優しい人だと知っています。それに本当に私を殺せますか?私を殺すリスク…ラント様!説明、はいどうぞっ!」
「そこの外見だけの妖精を殺せば西だけじゃない。北と東の神も敵に回すぞ?なんなら南のドラゴン達もだ。4か国と戦争をして勝てるのか?」
「ちょっとラント様!そこまで大事にして説明をしなくても!でも間違いなく、あなた方は二度と赤い髪を手に入れる事は出来なくなるでしょうね。そしてそれは王族のせいでそうなる。王配様?私を殺しますか?」
王配様はテキーラ、アップルワイン割りをグビっと飲んで「美味いな」と一言仰って「は〜まさか脅し返されるとはな。そもそも敵でもガキは切れない」と言って再び座り込んだ。
「その敵って!しかもガキ?その認識がまず違います!とりあえず私達は敵じゃない。敵はあのオジサン達なんでしょう?女王陛下?」
成り行きを見ていた女王陛下もグラスの中身をグビっと飲んで「ホントに美味しいわ」と仰って「彼らは全員、国の実力者で王家の血縁なの。彼らをまとめる為にもアイザック王子の赤い髪は必要なのよ。妖精さん?」と仰った。
「女王陛下、もう無理だって分かっているでしょう?それに陛下の本心ではないんでしょう?明日、私に話し合いの機会を下さい!お願いします。絶対、女王陛下と王配殿下のプラスになる提案しかしませんから!お願いします」
リリベルは床に頭が付く勢いで頭を下げた。
「‥‥‥どうせアイザック王子には、まだ会わせてくれないんでしょ?だったら良いわよ、お前で。明日の朝、お前に時間をあげる」
「ありがとうございます!それと!あともう一つ」
「何よ?」
「このスープカレーをお土産にもらっていいですか?」
「‥‥‥」
横で聞いていた火山の国の侍女さんのような方が、誰かに命じて、大きなお鍋にスープカレーを持たせてくれた。
リリベルはラント様にそれを持たせて、ザック殿下達が泊まっている使用人の住居に向かう。
きっと皆がハラハラしながら私達の帰りを待っているだろう。




