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前世も異世界転移もありません!ただの子爵令嬢です!多分?  作者: 朱井笑美


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  翌日の朝、リリベルは厩舎で護衛様の方から声を掛けられた。

「おはよう見習い少年!今日の夜はスープカレーだぞ!待たせたな。ぜひ招待するから食べに来い」

「護衛様!本当ですか?嬉しいです」

「そうか良かった。だが、もし一人で来るのが不安なら君の師事する騎士殿と一緒に来てもらっても構わないぞ」

「ありがとうございます。騎士様にも聞いてみます」

「ああ。テントで待ってるぞ」

 そう仰って護衛様は戻られた。



「危ないぞ!リリベル嬢。罠だったらどうするんだ!」

「ザック殿下、護衛様はそんな人ではありませんよ」

「ザック、私が付いて行く。だから心配はするな」

「兄上!」

「殿下、誘われたのは使用人用のテントの方なので、ただカレーを食べに行くだけです!」

「ただカレーを?カレーが食べたいだけだろ?」

「だからそうだって言ってるじゃないですか!」

「ザック、私もカレーを食べて来る」


「兄上!ラント兄上までリリベル嬢に洗脳されたのか?!」

「ハハハハハハッ!」

「笑い事じゃないぞ!リコピン!」

「アイザック、大丈夫だ。火山の国のテントも王城の中だ。この城の中で問題を起こすような事はないはずだ」

 と王太子殿下は仰るが、たくさん呪いを仕掛けられたわりに楽観的過ぎないか?と思うけどな。

 だが、その大らかさはリリベルには有難い。


 リリベルはお昼に王城の厨房をお借りした。火山の国のテントに行くなら何か手土産を持って行きたい。

 アップルワインと西の小麦。リリベルはぜひ作りたい物があった。暇にしているザック殿下にも手伝ってもらおう。


 夕方、日が暮れる頃、リリベルはラント様と火山の国のテントに向かう。

「ちょっと意外でした。ラント様がカレーを食べたいと言い出すなんて」

「そうか?」

「はい。それにてっきりザック殿下のように危険だからと反対されるかと」

「王太子殿下の仰っていた通り、この国の王城内で何かやらかすとは思えないしな。この国の王族はドラゴンだ。それに」

「それに?」

「散々、火山の国のグルメガイドブックを読まされたんだぞ!本場のカレーを食べたいだろう!」


「そう!そうなのよ!ラント様ったら頭が固いだけじゃなかった」

 それに一緒に過ごして思ったけど、ものすごく食べる。もしかすると聖魔法属性って、かなり魔力も体力も消耗するのではないだろうか?

 だがラント様は急に黙り込んでしまった。


「ラント様?」

「私は頭が固いか?女性からしたら、つまらない男なんだろうな。真面目だけが取り柄みたいなものだものな…」

 わっ!?いきなり落ち込んでた!失言したか?

 だがラント様は聖騎士人気ランキング1位なのに…。


「ラント様、悪いけど慰めませんからね。私、面倒くさい男はあなたの弟一人で十分なので。だからテントに到着するまでに自力で復活して下さいね」

 そう言うとラント様が目を見張る。

「そうだな。君の前で大人気なかったな。だがカレーの事を思い出したら何だかどうでも良くなってきた」

「そうですか。それは良かった」

 無事に勝手に復活したか。カレーのお陰だな。


 テントに着くと護衛様が待っていて下さった。

 ラント様とご挨拶をして中に案内される。テント内は外から見るより、とても広かった。そしてテント中に充満する美味しそうなスパイスの香り。


「わあ護衛様!とてもスパイスの良い香りですね。お腹が余計に空いてきます」

「そうだろう?スパイスは暑い気候の火山の国でも食欲を増進させる効果があるんだ」

「でもこんなに匂いがするのに、今までテントの周辺で料理の匂いがした事無いですね?」

「それは魔力石で匂いを吸収させているんだ。南の王城内でこの国の料理の匂いを充満させる訳にはいかないだろう?」

 確かにそうだ。


 だが「毎回、テントを張って料理も自分達でされる理由って?」

「ああ。私達はハンモックで寝る事が多いからベッドや布団よりもハンモックが良いんだよ。特に移動中はね。ベッドより場所も取らないから便利だぞ。それに食事もたまにならいいが、普段は食べ慣れた食事を好むんだ。我々はスパイスが効いている物を好むからね」

 そうかそれは納得だ。


「これお土産です」

「おぉありがとう。北のアップルワインか?!」

 いいえ我が子爵領のです。

「リンゴにはあまり縁が無いから嬉しいな。皆で飲んでいいか?」

「もちろんです。たくさんはありませんが」

「そんな事はないぞ、それにこれは‥‥ナンかっ?!」

「はい。お昼に王城の厨房を借りて焼いてみたんです。壺が無かったのでオーブンで焼いたモドキですが、味は悪くないと思います」


「そうか!そんな貴重な物を。火山の国では小麦は貴重だからナンは滅多に食べない。だからモドキでも嬉しいぞ。少年は本当に色々勉強しているな」

「皆!!ナンだぞー!」

 と護衛様が呼び掛けると皆様喜んで下さった。

 良かった頑張って作って。

 だが、まさかアイザック殿下が捏ねたとは思うまい。フフフ。


 そしてお待ちかねのカレーが運ばれて来て、ナンとは別にご飯も共に頂く。

「美味しい!チキンからダシが出てスープがとにかく美味しい」

「そうか。口に合って良かったよ。今日は食べやすいチキンにしたが、普段はヤギや豚も多い」

「ヤギは食べた事がありません!」

「そうか。我が国はヤギは牛より繁殖もしやすいから家畜として飼っている家が多い。ヤギ乳はもちろん、チーズやヨーグルトも乳製品はヤギが多い」

「スゴい」ヤギの乳製品も食べた事がない。

 ラント様もお口に合ったのか黙々とスープカレーを食べている。

「ナンはスープよりも豆カレーが合うだろう。載せて食べると良い」

 どのカレーも本当に美味しい!


「少年は酒はイケるのか?」と聞かれて頷くと「これは我が国の名産のテキーラだ。アガべというランの一種から作られている」

 と言って小さなワイングラスで透明なお酒を出してくれた。

「度数があるから香りを味わいながら、ゆっくりな」

 と言われて手渡されたお酒は、香りからしてブランデーやウイスキーのように強そうなお酒だった。


「女性や若者は色んなジュースなどと割って飲む事が多いが、今はジュースが無くてな」

「いいえ。せっかくなので、このままチビチビと…氷は?ロックが美味しそうです」

「そうだなロックや水割りもおススメだ」

 そう聞いてリリベルもラント様も魔法で氷を出して入れる。


「美味しい。ご飯もお酒も美味しい。幸せ」

「君達は氷を出せるという事は、水属性か?もしかして北の人間は皆、氷が出せるとか?」

 おお!それは違う。だが説明が面倒だ。ここは話題をそっちに振る。

「火山の国の皆様の属性は何が多いのですか?」

「ああ我々は火属性が国民の大半だ。次は風で、土だな。水属性が一番少ない」

 成程、想像通りだ。ちなみに東西の国は風と水属性が多く次に土と火属性だ。北は分からない。そして南の国は水と土属性が多く風と火属性がその次だ。


「じゃあ皆様のお酒にも氷を作りましょうか?」

 と聞くと、とても喜ばれた。そうして火山の国の皆様と盛り上がっていた夕飯の場に、なんと!いきなり女王陛下が現れた。

 キャー!ちょっと想定外でしたが、護衛様は王配だったから来てもおかしくなかったね?とラント様と顔を見合わせる。

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