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「〜という訳であの山は御霊山だそうでドラゴン様の多大なる影響を受ける場所という話でした」
「‥‥そうか‥‥ちゃんと土地勘のある者に聞いて目的地を決めれば良かったな」
「でも、あれはあれで良い観光でした」
「君は気楽でいいが、私は女神様に頼まれている」
「ま〜まだ機会は、いつかきっとありますよ」
ラント様は大きく溜息を漏らされた。
ラント様には悪いがリリベルにとって、その件は追加任務みたいなものだ。リリベルの本来の目的はザック殿下の縁談を火山の女王に取り下げてもらう事だ。明日には彼らがやって来る。今は出来るだけそちらに集中したい。
「ビーバーちゃん」
夕食後、王女殿下から話があるとお部屋に呼ばれた。
「ビーバーちゃん、火山の女王はね、いつも身辺には侍女以外に複数の護衛を従えて行動しているけど、その中に一人だけ毎回同じ護衛がいるの。女王は王配をいつも国に置いて来ていると仰るけど、私はその護衛が王配なんじゃないかと思ってる」
王女殿下が思ってらっしゃるなら、きっとそれは間違いないのかもしれない。
「それがビーバーちゃんへのヒントになるといいのだけど」
「ありがとうございます、王女殿下。でもその絵は何ですか?」
「ああこれはね、妃ちゃんのお兄さんのお部屋に掛かっていた呪物の絵をもらったの。私の部屋に飾ろうと思って」
王女殿下は嬉しそうに仰るけど、その絵は確か‥‥‥
「この絵の人が夢に出て来るなんて面白くない?」
絶対、面白くない!絵自体は普通の絵だ。商人風の男性がオアシスのヤシの木陰で休憩しているような絵だ。
「明日、感想を聞かせて下さい」「もちろん!」
確か火山の国の御一行は、いつも朝に来て彼らのテントを設営するらしい。そして毎回、女王と来ている護衛さんの特徴は短髪の茶髪に恐らく茶色の瞳なのだそうだが、彼らの国に一番多い色でもあるそうだ。
だが背が高く体格も立派でいかにも騎士という風情のイケメンだと王女殿下は仰っていた。
「わりと目立つからきっと一目で判るよ」
そう仰っていたので、次の日の朝、彼らが到着してザウルス様らと挨拶をされている間に、リリベルはこっそりと中庭の植物達に協力してもらい気配を消しながら女王御一行の様子を観察した。
女王陛下は最初に設営された立派なテントに直ぐこもられた。きっとこれから体を休めて旅の疲れを取るのだろう。
火山の国から南の国の王都までは5日程と意外と近い。
南の国の国土は東西の国と国境を接する程横に長いが、地図で見ると平たく横広の国だ。
「恐らく王配と思われる護衛騎士は彼ではないか?」
「!」「びっびっくりしました!急に声を掛けないで下さいラント様!」
リリベルは小声で怒鳴る。
「ああ、植物になり切っているところに悪かったな」
そうは仰るが、ちっとも悪気が無さそうだ。それにラント様は聖騎士の真っ白な制服姿だ。
「見つかったらどうするんですか!」
「大丈夫だ。君から貰った風の魔石のブローチで風景に溶け込む魔法をかけている。これは便利だな」
「めっちゃ使いこなしているし!」
「そんな事より彼だろう?」確かにそうだ。
リリベルも当たりをつけていた騎士は、周囲の者に色々指示を出して回っている。そして女王のテントにも普通に出入りしているところを見ると、やはり彼が王配なのだろう。
二人でテントから離れて、朝食を取りながら食堂で話す。
「何で王配の存在を毎回隠すのでしょうか?」
「理由は色々あるだろうが、王配まで国を離れているとバレると危ないからじゃないか?」
「なら、それでも彼を伴う理由は?」
「それは…個人的な理由だとしたら分からないな」
「う〜ん…」リリベルが首を捻っていると
「ビーバーちゃん!おはよう。どうだった?彼は見つけた?」
王女殿下がやって来てリリベルの隣に座る。彼女の定位置だ。
「おはようございます。そうだ!王女殿下、昨晩はどうでしたか?夢に絵の人は出て来ましたか?」
「絵の人?」
「そうです。ラント様の部屋の呪物の絵を昨晩、王女殿下の部屋に移動したんですよ」
「また何でそんな事を?とても迷惑な呪物だったぞ!」
「それがねぇ。絵の人、夢に出ては来たんだけど、朝起きたらさ居なくなってたの」
『居なくなった?』二人でハモった。
「そう。ただのオアシスの風景画になっちゃってて、つまらなくなったから捨てちゃった」
一体、絵の人に何をしたんだ?王女殿下…。
ラント様も遠い目をしておられた。




