320
その日はゆっくり休んで旅の疲れを癒やし、翌朝サオリの様子を見に厩舎に行くと早朝にもかかわらず、ギャラリーの皆様がたくさんいた。
王太子殿下が朝の鍛錬の後に寄ったのか、王太子殿下と武士の皆様が馬場の柵の側でワイワイ馬達を見ていた。
サオリとタナカは朝日を浴びて今日もキラキラ純白の馬体が美しい。毎日たっぷりブラッシングもしているからね。
2頭はギャラリーがうるさくても、近寄って来なければ良いようだ。知らん顔して、いやむしろ“美しい私を見ても良いわよ”くらいのオーラを放っている。
人の苦労も知らんで…と思いながら王太子殿下と皆様にご挨拶する。
「おぉっおはよう。今日は令息姿か。なあリリベル嬢、あの馬達に好かれる秘訣は何だ?」
「‥‥‥金髪碧眼」
「がっ外見か?!だがっ北のスネイプニルの騎馬隊の騎士達は金髪碧眼だけじゃないだろう?!」
「伯父が以前、言っていたのは北の国の出身か、北の国の血筋が混じってないとダメだそうですよ」
「確かに君らは北の者の容姿に近いな」
王太子殿下がションボリ仰る。ドラゴンは他の神獣に憧れていいのだろうか?
朝の礼拝を終えられたラント様も馬場にお見えになった。
「おはよう。王太子殿下、昨晩の私が宿泊した部屋だが…壁の絵は呪物だから外した方が良いだろうな」
「はあ?!どの部屋の絵だ?直ぐに始末させるよ!お客人に申し訳ない事をした」
「いや弱い呪いだったが、夢の中で絵の人物に茶髪の女性を好きになるよう散々説得されたよ。結構、しつこかったなぁ」
凄く嫌だ!そんな夢…。王太子殿下も絶句している。
「直ぐに他の部屋も点検するよ」
そう仰って王太子殿下はその場にいた数名の武士達に指示を出していた。
「リリベル嬢、馬達の世話が終わったら朝食後に遠乗りに行かないか?」
「えっいいな〜私も行きたいな〜」
王太子殿下が素早く反応する。
「街乗りのスピードならイケますかね?」
「さあ?それはあいつら次第だからな」
「ん?馬の速度を乗り手がコントロール出来ないのか?」
「した事ないけど」「ああ、そうだな」
王太子殿下が驚愕している。
「スネイプニルの場合は乗るんじゃなくて乗せてもらっているんですよ。目的地を告げてからお願いしますって」
「そっそうか…それは私のスネイプニルに対する認識がまだまだ甘かったな」
いや普通そんな事あり得ないからね。
結局、王太子殿下は執務があるので遠乗りは諦めて戻られた。
「ラント様、今日の礼拝長めでしたね?」
「ああ…まぁちょっとイレギュラーがあってな」
「お部屋の呪いの絵のせいですか?」
「いや、それとは別件だが…リリベル嬢、ガラスペンと青薔薇の栞と髪留めは持って来てるよな?」
「え?それは私、ラント様に言いましたっけ?持っては来てますけど」
「ああ、まあその…遠乗りに持って来て欲しい」
「遠乗りにですか?」「ああ頼むよ」
「分かりました」
ラント様の朝の礼拝で何か女神様からお告げでもあったのだろうか?もしかしたら“神様の思惑”とかなんだろうか?よく分からないが、とりあえず持って行けば何か分かるだろう。
ベルトラントが朝の祈りを女神に捧げていると女神様が現れた。
「うんっしょっ!はーやっぱ、南の国に現れるのは骨が折れるわねぇ。ラント卿?ちょっとあの子に言ってくれないかしら?ガラスペンと青薔薇の栞と髪留めを携えてドラゴンの影響が少ない場所に移動してって。わー切れる…頼んだわ…ブツッ」
ハッ!礼拝の最中に居眠りを?!
いや女神様に眠らされたんだ!リリベル嬢に何を持たせろだっけ?……ペン…ガラスペン、青薔薇の栞、髪…髪留めだ!
ドラゴンの影響が少ない場所…城から離れればいいのか?スネイプニル達で遠乗りに誘ってみるか。
火山の国の者達が来るのは明日だ。
恐らく今日ぐらいしか機会はないだろう。




