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「リリベル嬢これは?」
「あっ!少なくて済みませんっ。馬だったからそれぐらいが限界で…」
「違うだろ」ラント様に睨まれる。あ、ラント様に睨まれるのも新鮮です!ってそれは騎士様だからそういう時はきっとあるか?
「ビーバーちゃん、これどうしたの?」
王女殿下に聞かれて我に返る。どこで手に入れたのか?って事ね。
「大丈夫です。これは私が犯罪に手を染めて手に入れたとか、北の大地を掘りに行ったとかではありません」
「それは分かっているよ。でも量も大きさも普通ではない。この量は国家間の取引き量だ。この大きさ10個で国の年間予算の5%くらいになる」
リリベルが目を見開いていると「このブローチの価値が分かっただろ?」ってラント様が横から仰った。
はい。私は世間知らずの常識知らずです。だが正直に言うしかない。
「北の国王陛下に私が支援している画家の絵画を数枚お譲りした代金が、魔石で支払われたのです」
次に驚いたのは南の王族方だ。
「その画家は今、我が国で一番人気の画家で彼の作品はすでに数年待ちです」
ラント様が付け加えて説明して下さった。ラント様、そんな事もご存知なのね?それにさすが元王子様。南のお言葉も流暢にお話しになるんですね。
「そして我が国でも、北の国でも魔石はそこまで重用されておりません。価値があっても安価な魔力石が重宝され、割と見向きされにくい物なのです。しかもこの令嬢は、まだジャラジャラと持っている。だからそれぐらいは「どうもありがとう」と気軽に貰ってやって構いません」
ラント様?なんかどんどんイメチェンしてますか?
「そうか。君の太っ腹に感謝するよ」
と国王陛下がそう仰った。ん?太っ腹?意味は分かるが、つい自分のお腹を見てしまいラント様のゲンコツが落ちて来た!
痛かったけど、ラント様のゲンコツ新鮮です。もしかして私が第1号ではないですか?!
ラント様と二人で昼食を頂いた後、私達は再び王太子殿下と妃殿下の元に伺っている。お二人のお子様に会いに来たのだ。もちろん私の横には王女殿下がくっ付いているけど。
お二人のお子様は3ヶ月になっていて、もう首も座ってきたそうだ。
「わあ!可愛い」王子殿下はなんと青が混じる金髪に藍色の瞳をされていた。
「抱っこしてもいいわよ」と言われ、リリベルは王子様を抱えると「はい、伯父様」ってラント様に渡す。
しかしラント様は危なげなく赤ちゃんを抱えて微笑む。
チェッ、赤ん坊はイケるんだな。
「君の領地では遠慮なく領民から『我が子を抱いてやって下さい。聖騎士様』って、よく赤ん坊を渡されたからな」
なんと我が領民に慣らされてしまったのですか!
でも「良いパパになれますね。マリィ姉ちゃんに言っておきますね!」と言ったら照れていた。
うん。それそれ。
「まあラント兄様はリリベル嬢と仲良しになったのね?」
と王太子妃様が仰った。
「仲良しというか…1週間ずっと一緒にいるとな…」
と言ってラント様が溜息を吐かれた。
「1週間?君達はスネイプニルで、どれぐらいでここまで来たんだ?」
王太子殿下が仰る。確かにそれは気になるだろう。
ラント様が一瞬考え「西の砦で少しゆっくりしましたが、おおむね6日でこちらには到着しました」
「6日か…さすが神獣だ。半分以下の移動速度だな」
「しかも騎士のそなただけならまだしも、令嬢を連れてだから大変だったであろう?」
「‥‥‥」
あ、そこノーコメントなんだラント様。
「兄様違うよ。ビーバーちゃんが連れて来たんだよ。ビーバー君を。ねっ?」
私もノーコメントでお願いします。
王子殿下のお名前は“アンドリュー”様だった。
「大きくなってね、ちゃんと名前に龍が貰えたら“アンド龍”にそのままなるの」
それはそれは…
「私が西の名前に憧れてしまったからね」
正確には北だろう?
だが名前と言えば…「タナカサオリの夫がヤスオと仰ってましたが“ノースポール探検記”の作者名と違うのですが?」と聞くと
王太子殿下は「ああ彼の本名は作者名と同じ“田中タツヤス”漢字で龍康だ」
「龍が付くのですね?」
「ああ。彼は末端の王族だが実力があって龍をもらったが、その前の名前が康夫だった。だからそのまま康夫と呼ばれる事が多く、婿入りであだ名がマスオになってしまった」
「サオリの家の田中も王族の家系でサオリが子供を一人産むとタツヤスは北に行ってしまった」
「そんなにマスオが嫌だったんですか?」
「サオリは龍憑きだったんだ。しかも彼女の能力も特殊でね。彼女自身も豪快な女傑で奔放だったんだよ」
まあ色々ありますよね。そこはもう追究するところではないだろう。
「王女殿下、そう言えばザウルス様は?」
「そうだ。それも言っておかねばならないな。君にとって一番重要な事だろう。火山の国の一向が明後日には到着する。また王城内の一番広い中庭を提供するのだが、ザウルスにはその準備をやってもらっている」
「いつもなら第二王子がやっていたのだが、第二王子妃が懐妊したんだ。彼女は今、体調が悪くてね弟がなるべく付き添っている」
そうか!いつもご一緒のお二人が、王子妃様のお姿が見えないと思ったらそういう事か!
「君にも会いたがっていたから、どこかで見舞ってやってくれ」
「はい。私もぜひお会いしたいです」
そう言って王太子殿下のお部屋をラント様と二人で辞して来た。
いや王女殿下もくっ付いていたわ。
もはやラント様は王女殿下にも動じていない。
もしかして私がラント様の耐性を鍛えたのだろうか?!




