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西の砦には、私達がザック殿下とは別で到着するという報せが先に‥‥来ていなかった。
多分、報せの早馬も抜いたんだ…。
でも、ちゃんと王家と大神殿の書状がある。
それに王族を抜けていても、ラント様の事を砦の偉い人達は知っていてご挨拶にお見えになった。
「リリベル嬢、まだ陽がある。このまま国境の関所に向かうか?それとも今日はここに世話になるか?」
ラント様が私に急ぐかどうか聞いてくれる。
明日、早朝に出ればその日の内に南の王都に着けるだろう。
サオリ達の事を考えれば公共の宿よりこっちがいい。なので今日は砦に宿泊する事になった。
「ここに空いている厩舎はありますか?」
リリベルは厩舎の空きを確認してサオリ達と共に案内してもらった。
その間にラント様は砦の偉い人に書状を見せて、事情を説明して下さるそうだ。
厩舎はさすが広かった。馬場も広くてサオリ達は回復魔法をかけると、あっという間に駆けて行ってしまった。
砦の騎士や厩番にも白馬に近寄らないように言っておく。
厩舎に飼葉と水を準備して、砦の中に戻るとラント様が偉い人と待っていた。
確か以前もお会いした砦の責任者の隊長様だ。
でもあの時はリリベルが魔力切れを起こして倒れていたから、ちゃんとご挨拶をするのは今回が初めてかもしれない。
リリベルが隊長様にご挨拶しようとすると、ラント様が先に仰った。
「リリベル嬢、先程、今日泊まる部屋に案内されたのだが、こんな物が出て来た」
手の平サイズの白い巾着に何か謎の模様が描かれていて、中から複数の葉と赤茶色の髪が数本出て来た。
間違いない、呪い袋だ!
「まだ嫌な気配を感じるから探せば複数出てくるだろう」
「ザック殿下の御一行には神官様が着いておられるはずですが…」
それに東の神様のペンもある。今から探さなきゃ駄目かい?
「前回もライオット卿と南の王子殿下、砦の騎士達で手分けをして部屋を検分したのですが、まだ残っていたのでしょう」
砦の隊長様が仰る。
「いや新たに仕込まれた可能性があるぞ」
「しかし砦に出入りする者達を全て洗い出すのは…」
真面目なラント様はやると言い出したら聞かないだろうな。
可愛い弟の為だしな…。
「この砦内の呪いや呪いを全て排除できればいいですか?」リリベルが聞くと
「そんな事ができるのか?いやできるか。頼むリリベル嬢、客室全室に仕掛けられていたら危ないのはアイザックだけではない」とラント様が仰った。
確かに無差別に女王の虜にしてもいい訳ないか。だがあの女性なら「ぜ〜んぶ。お相手するわ」とか言いそうだなと思いつつリリベルは砦の壁に手を当てる。
素材は石造りのレンガだ。石は初めてだがイケるだろうか?土以外は初めてだなと思いながら魔力を壁に流す。ちゃんと石達も応えてくれた!
「ラント様、隊長様、砦の上の部屋から確認していきます。騎士をできるだけ集めて私が言う場所に向かわせて下さい」
「リリベル嬢、いちいち排除しないとダメか?」
「一括の遠隔での無効化ですか?そこまでは私には…」
「浄化はどうだ?」
「私、土属性なんですけど!」
「ベルトラント卿、砦内の全ての呪物のありかが分かるだけでも十分じゃないですか?」
隊長様がそう仰る。
そう!その通りでしょ!
それでも納得し難い顔をしているラント様に言う。
「全部の呪物を発火させ無効化させる事はできますよ。まあそしたら今度は火災かもしれませんが?」
「1つずつ部屋を当たろう」結局そうなった。
リリベルは砦の上の部屋から石達に教えてもらって怪しげな異物の場所を1つ1つ騎士に伝えていく。
上の階の部屋ほど上位の者が泊まるので念入りに聞いていく。だが時々、フェイントのように下々の大人数部屋からも呪物は出てくる。
最後に使用人の部屋も全室確認しておく。
「騎士以外の使用人部屋か?」
「はい。念の為ですが…ん?今、使用人塔の休憩室に居るメイドの荷物、全チェックをお願いできますか?休憩が終わる前に急いで!」
数人の騎士達が走って向かう。恐らく犯人は通いの使用人の誰かかもしれない。
メイドの身柄を確保したと報告が来たので最後にもう一度、砦全体を確認する。
うん。スッキリした。
「終わりました」と伝えると隊長さんはホッとされた。
集めた呪物の中には随分、古い物もある。砦の歴史の分だけ呪物もあるよなと思っていると、ラント様が
「本当は浄化できただろ?」と小声で言ってきた。
「多分?」と言うと「実力を隠しているのか?隠したいのか?」
と聞いてきたので正直に言っておいた。
「できますが、そんな事したら魔力切れで倒れます。4階から確認し始めて多分3階辺りで」
砦は石造りの4階建てで複数の塔がある広い建物だ。外壁も含めるとかなり横に広い。宿泊できる場所だけでもワンフロアで恐らく息切れだ。
安易に姉と一緒にするなと言っておくと「スマン」って返ってきた。
だから私は土属性なんだよ!




