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侯爵家の馬車で王城内の納涼祭の会場に到着する。兄は遥か前に出たはずだが、やはりまだ到着していないのかな?
リリベルはアイオット様達と別れて殿下に指定された場所に向かう。会場内は人で賑わっていて王族の登場を待っている様子だった。
特に着飾った令嬢達が目に入る。恐らくまだ婚約者のいない第三王子殿下や公爵令息など高位貴族の側近達を意識した令嬢達なのだろう。
でも今回はそれ以外を目的とした令嬢やご婦人方の姿も見える。彼女達も今か今かとご婦人同士、和気あいあいとしながら王族達を待っている。
リリベルの口の端が自然に上がる。
「ふふ、どうやら伯母達に頼んだことの成果が出始めたようだ」
まあ成果の確認ができただけでも来て良かったというもんだ。
リリベルが心の中でほくそ笑んでいると、以前、王子宮に案内してくれたザック殿下の侍従さんが、
「リリベル嬢こちらです」と案内に来てくれた。
「リリアン様もお越しですか?」と聞くと、
「リリアン嬢は会場にはお越しでしょうが、今回、殿下は直接、お呼びになってはおられません」と言う。
リリベルが「おかしいな?」と思っていると、侍従さんは会場を一旦出て廊下の奥、王族の控え室まで来て、
「殿下がお待ちですので、どうぞ」と扉を開けてくれた。
リリベルはザック殿下の姿を確認してドレスを摘み腰を落として挨拶をする。
一応やっておかねばだろう。が、しかし、
「リリベル嬢、来てもらって悪いがもう行く」と殿下が、
「お手!」と手を出してくるので、うっかり直ぐに乗せた。
ハッ私、ポチじゃん!
そのままエスコートされ、来た道を戻る。
「私、会場の手前で待ってたら良かったんじゃね?」と思ったが、大事なのはそこじゃない!
「殿下!ザック殿下、ちょっと待って、何かおかしくない?」
「ああリリベル嬢、一応、言っておく。ドレス姿も綺麗だよ」
「それじゃなーい!」
「悪いがもう会場だ。作り物の令嬢出しといてくれ」
何て事だ!
ザック殿下のパートナーなんて聞いてないだろー!?
私どうなるんだ!ギャー!!
リリベルの脳内は大パニックになった。
「第三王子殿下のご入場です」会場内に案内が入る。
その案内、要るか?
リリベルはザック殿下のエスコートで会場内に入る。
「私は敵じゃないよー、敵じゃない…ご令嬢方…どうかこの想い届いて!」
この後、リリベルは全ての感情をシャットダウンし心を“無”にする。
顔に笑顔の指令だけ出して。




