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王城から戻ってから、リリベルは気になっていた事をラント様に聞いてみる。
「そうだラント様、大神官様が仰っていた聖女ってマリィ姉ちゃんの事じゃないですよね?」
「ああ。君の事だな」
「何で私が聖女なんだろ?まさか聖女の妹だから?そんな訳ないか」
「全く自覚が無いのだな?あんなに植物を育てる力があって、植物にも大地にも力を借りる事ができるのに」
「それはうちの爺様もできますからね〜。爺様はもっと凄いし」
「あぁ成程。そう言えばあなたの家族も規格外だったな。特に、君のお祖母様もお父上も」
「ラント様はいつも子爵領に来てくれるから、うちの家族もよくご存知でらっしゃいますよね〜。うちの家族はそんなに変なのかなぁ?でも侯爵家の人達も変だし…周辺国の王族も変だから、うちはマシだと思ってた」
比べる人達が…とベルトラントは思った。
だが聖女のマリベルもそういうところがある。本当に世間知らずで深い森から出てきた妖精のようだ。
「ねえ、ラント様が私の護衛と同行を申し出て下さったのって、もちろんザック殿下が弟だからっていうのもあると思いますけど、伯父にも何か言われたのですか?」
「ああ。侯爵家にスネイプニル達の面倒を見に行った時『何でスネイプニルが2頭、北から来たと思うかね?』と最初、聞かれて何の事か意味が分からなかったな」
それは分かるはずがない!だって私も分からなかったし。
「前侯爵は『リリベルはサオリに乗って、これから南に行くだろう。だが一人では危なくて行かせられない。せめて一人、信頼できる騎士が付いてくれればなぁ。もう1頭のスネイプニルには誰が相応しいと思う?もちろん乗れる人物だ。リリベルは第三王子の為に南に行く。君はもう王族を抜けたから第三王子は関係無いか?』と仰ったよ」
わぁ!それってラント様が同行の騎士になれって言ってるようなもんだ。
「それで考えたんだ。最初は君の護衛を引き受けるだけならミカエル卿かと」
「へっ?」
「だがアイザックがこの縁談を断りたい最大の理由は、君だと聞いた」
私が南に行く理由も殿下だって聞いてない?
「西の女神は慈愛の女神。頑張る人を応援する。もう1頭のスネイプニルは二人を応援する者が乗るべきだ。なら私だと」
「でもスネイプニルは北の馬だから西の女神様とは関係ないよ?」
「北の陛下は聖女様に『兄君にそっくりだ。だから女神は喜んで君を聖女に選んだろう。君は実力もあるが、それ以上に歴代の聖女の中で最も寵愛を受けている』と仰ったそうだ。兄とは王太子殿下の侍従殿の事ではなく、東の神の事だとしたら、東の神は聖女様に似ている。だったら妹の我々の西の女神様は君に似ているんじゃないか?」
わーぶったまげた!!それだけの情報で普通、その答えにたどり着くか?リリベルが驚きで固まっていると
「やはり、そうか。神々がこんなに人に手を貸す事は珍しいだろ?神にも何か“思惑”があるのだろう。だから私は神にも手を貸すことにした」
神様の思惑?そんなものが?ってかラント様って何者?
もちろん生い立ちも聖騎士を目指された理由なんかも知ってはいるのだけど、恐ろしい程、頭が良いんじゃないだろうか?
「ラント様、王太子殿下もザック殿下もラント様の事が大好きでしょう?兄弟の仲は良かったのね」
「さあ?何であんなに二人が私に懐いているのか、よく分からないんだよ」
「王女殿下も懐いていたの?」
「まあ似たような感じかな」
「ふ〜ん。ラント様は凄く勘も良いし、頭も良いのに兄弟に好かれる理由が分からないのね?」
「そうかな?私はそんなに頭も勘も良くないよ。常に努力しないと人並みでもない。特に聖女様に相応しい人物になるには、きっと…まだまだ遠いな」
‥‥‥ララ姉ちゃん辺りが、今のを聞いたら腹を抱え出して笑いそうだ。
ラント様は多分、ご自身の事に関しては恐ろしく勘も働かないんだ。そして恋愛にもだ。
マリィ姉ちゃんも同じだし…全く似た者同志だな。
仕方ない。今回の事が無事に解決したら、ちゃんとラント様に手を貸してあげよう!リリベルはそう決心した。




