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春休みに入り、ザック殿下は明日、南の国に向かわれる。
今回も二人の補佐官達を伴われ、学院を卒業されたマレシオン様も連れて行かれるそうだ。
そして殿下の護衛にはリリベルの護衛のリコピンを貸し出した。
リコピンはリリベル達の旅の方には同行が難しいからだ。
ライ兄は元々、王太子殿下の護衛騎士だし今回はお留守番だ。
リリベルには、すでにラント様がついてくれているので、リコピンは入れ替わりでライ兄から引き継ぎを受ける為、王城に行っていて、そのまま南に同行するそうだ。
殿下の出発の日、リリベルはお見送りに王城に行った。
出発の時間より、かなり早めに行ったのだが、馬車の周辺は慌ただしく準備をする人達で賑わっていた。
「ようお嬢!早いな」
「リコピン!おはようございます」
「殿下はもう少ししたら来るぞ。今、陛下や王太子殿下に出発の挨拶をされている」
「そうですか。リコピン、殿下を宜しくお願いします」
「おう任せとけ。じゃあ俺の馬を見てくるから」
リコピンが去ると、ガブリエラ様とエリオット様も近くにいるのが見えて駆け寄る。
「リリ、見送りか?早いのにご苦労だな」
「私も明後日、出ますから」
「リリベル嬢、何か策は考えた?」
「う〜ん。考えたような考えてないような…もう少し情報を集めてからですかね」
「そうよね。でも期待しているからね」
「わープレッシャー」
「兄がリリベルに任せとけって言ってたぞ」
「それまだ…有効だったんですか…?」
「ハハハ。全部お前に託す訳じゃないよ。こちらだってちゃんと断りの交渉に行くんだ。相手は化け物とかではないし、むしろ理性のある人間だ。何事もなく断る事ができればお前の出番も無しだ」
「それが一番有難いですけどね」
「大丈夫だよ。リリベル」
エリオット様が優しくリリベルの頭を撫でる。
リリベルが頷いていると「リリベル嬢!」とザック殿下に呼ばれた。
「殿下!」
リリベルが駆け寄るとザック殿下にいきなり抱き締められた。
あのっ!公衆面前なのですが!リリベルが慌てていると
「しばらく会えないから充電」と言われて‥‥‥
恥ずかしいけど嬉しいの方が勝ってしまい大人しくする。
「ほらっ殿下に呼ばれて、あんなに顔が輝いて」
「確かに。俺達のところに来た時より輝いてた」
「ま〜。両想いになった途端、アツいわね」
「ホントだ…全く周囲に遠慮なしだ」
「ちゃんと後腐れなく解決して帰りたいわね」
「そうだな。リリじゃないけど僕も帰ったら、ご褒美があるんだよ?従姉妹殿」
「まあ何かしら?」
「君はあげるほうか?でもすでに南で試し済みだろう?」
「…まさか、アレの事?」
「多分…そうかな。前回、帰国した時もご褒美もらってね。ハハハッ今回は僕がネダったよ」
「それはそれはご馳走様」
「行って来るよ。でも向こうでも会えるな?」
「うん」
ザック殿下の腕が離れると急に寂しくなってしまった。
でもこれからも一緒にいる為に南に行くんだから、ちっとも悲しい事なんかない!と自分を奮い立たせる。
私もザック殿下の温もりを思い出して、きっと頑張れる。その為にも準備万端で行かないとね!
ザック殿下は絶対あげないから!
「ねえリリベル嬢、これで全部だわ」
「ありがとうございます。王太子妃殿下」
「でも0歳児から60代までなんて幅広いのね?」
「だって多い方がいいに決まってますから」
「そうねぇ。でもちょっと気持ちが複雑だわ」
リリベルはザック殿下達を見送った後、王太子妃殿下の所に南に行く前の挨拶と依頼していた物を受け取りに行った。
「今朝も話を聞いたわよ。アイザック殿下と早速、アツアツだったんですって?」
「充電行為です」
「それがアツアツ行為でしょ?何、業務行為みたいに言うのよ」
「照れると周囲が増長するので」
「ったく。ちっとも可愛くないわね。ベルトラント卿、リリベル嬢の相手は大変でしょうけど宜しくね」
「まだ…慣れてはいませんが精進します」
「その子は騎士団の長ですら振り回す子よ?用心…いや何があっても動じない事がコツよ」
「肝に命じます」
「ラント様、第一王子だったのに妃殿下相手に硬くないですか?」
「あなたが緩過ぎよ!ほらっこういう子なのよ」
「フフッ。そういうところは君の直ぐ上の兄君にソックリだな」
ガーン!確かにナル兄はザック殿下やミカエル様にも生意気を働いてた!ダメな見本じゃん!
これから先は我が身をちゃんと見直そう!リリベルはしっかり挨拶して王太子妃殿下の元を去った。




