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卒業式当日、式も無事に終了し、マレシオン様はパートナーを置かずにパーティにご出席になったが、リリアン様から赤とピンク、紫の色が混じるチューリップの花束を渡され、嬉しそうに受け取っておられた。
だってリリアン様が毎日、一生懸命、お世話をされたのだ。リリベルは開花の時期を少しベストな時期に調節しただけだ。
全部、リリアン様が毎日生徒会室に通われたのだ。
きっとその気持ちが彼にちゃんと伝わると良いなと思う。
リリベルの送辞は無難な挨拶と、ちゃんと自分が学院生活で学んだ事や苦楽の思い出を盛り込んで読んだ。まあまあの出来ではなかったかな?
今年も制服での参加だが、この日は令嬢姿だ。
まあこれもマレシオン様の希望でもあった。それぐらい叶えても良いかなと思ったのだ。
「最初には踊らないぞ!リリアン様の後なら踊る」
と付け加えておいたけど。
約束通りマレシオン様はリリアン様と最初に踊ってからリリベルを誘ってきた。
だから「喜んで」と言って受けた。その後も生徒会の先輩だった令息達とは踊ったが他の令息達のお誘いは、いつも通りシャーロット嬢が断ってくれたので、リリベルはその後はずっとアイオーン様とマリアンヌ嬢の側にいた。
ザック殿下は最高学年のお姉様方に頼まれて踊っている。
ザック殿下も夏を過ぎた辺りから徐々に王子としての人気を取り戻していて、学院祭の成功も大きかったのだろう、再び高位貴族の令嬢方に熱い視線を向けられる事も多かった。
火山の国の件さえなければ、また殿下の婚約者になろうと高位貴族の令嬢達の熾烈な戦いがあったのかもしれない。
しかし、この縁談の話と呪いの話が社交界に流れると令嬢達は以前同様大人しくしていた。恐らく殿下や側近達が上手く噂を利用して令嬢達が殿下に来ないよう統制を取ったのだろう。
ザック殿下はたったの2年弱で身長も10センチ以上伸び、体も鍛えて立派だし、見違えるように成長されていた。
何より殿下の中身から子供っぽさが抜け、ちゃんと周囲を見て思慮して動けるスマートな大人に変わったのだ。元の容姿の良さも相まってそりゃあモテるだろうという感じだ。
「やー育てたよね」リリベルはそう思う。で、自分で収穫してしまったがね。
だが大層なワケアリ商品だったのも自分らしいと思う。
「殿下の状況、まるで昨年度の会長のようですね?」
侯爵令息がそう仰った。
「本当に。でも今年は会長が令嬢の格好でらっしゃいましたから」
「僕達も随分、皆に聞かれたんですよ。会長はどちらの姿で参加されるのか?って」
「それは皆様にお手数をおかけしました」
「でも会長はこれからが大変ですからね?」
「そうですよ。だからこれぐらい私達はどうって事ありません」
「頑張って来て下さい!」
「火山の国の女王なんかに負けないで!」
生徒会の皆様には私が殿下の縁談を、くれぐれも穏便に潰す使命を受けている事を、きちんと説明してあった。
「ありがとうございます。きっと皆様の声援に応えてみせますから!」
「カッコいい!それでこそ会長です」
皆に応援されてリリベルは胸が熱くなった。
「で、リリベル嬢、本当にこの本は読んでおかないと駄目なのか?」
ベルトラント様が昼食後、侯爵家の居間で『カレー食べ歩き!火山の国』と『スパイス天国!火山の国』の最新号を見てそう仰る。
「そうですよ!これ凄い情報豊富なんですから。絶対、読んで下さい!王族紹介に趣味や好きな食べ物、特技まで明かされているんですよ。侮れないんです」
ラント様はページをめくって「本当だ…スパイスを組み合わせて、相手に好意を抱かせる呪い袋の作り方まで載ってる…」と仰った。
両片想いの男子はそこに食い付いたか…。
もうこれ以上の好意はお互いに要らないはずなんだけど。
ここ数日、リリベル達は午前中、サオリ達に乗って遠乗りに出ていた。
全速力のスネイプニルに慣れる為だ。体勢は父から説明を受けていたが、さすがに風魔法が長時間持続の難しいリリベルには向かなかった。
同じ風属性のナル兄ですら父の倍の時間をかけて子爵領から侯爵家に戻って来ていた。恐らくリリベルもその乗り方が限界だ。
ラント様も同様だった。
ラント様は神殿に属してから属性が変わっている。彼らは聖魔法属性なのだ。この属性は、なかなか万能だがリリベルのように長続きがしない。
全部を少しずつというダイジェスト版みたいな属性だった。
だがカッコいいのは風の刃だけではなく光の刃も使える。
これは旅の間にぜひ教わりたい!とリリベルは、ついミーハーを発症したのだった。




