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大神殿の協力を取り付けてザック殿下とガブリエラ様は先に王城に戻って行かれた。
リリベルは神殿の薬草園と菜園の世話をするからと言ってまだ残っている。
ザック殿下が「手伝おうか?」と言ってくれたが断った。
殿下は忙しいはずだし、リリベルには今はリコピンが付いてくれている。
リコピンも水属性だ。きっと彼も水撒きには役立ってくれるはずだ。
そしてリリベルには大神官様にお願いしたい事がまだあった。
リリベルはザック殿下が南に行く際、別行動で自分も南に行こうと決めていた。その同行者兼護衛をベルトラント様にお願いしたいのだ。
聖騎士の彼なら呪いにも耐性がある。それにスネイプニルにも乗れるし、ザック殿下のお兄様だ。だからザック殿下の為に動いてくれないだろうかとお願いするつもりだった。
まずは大神官様に聖騎士の派遣を仕事としてお願いしないといけない。
本来、聖騎士は神殿に属さない人の護衛をする事はない。だが聖女や大神官様に依頼された場合は神殿の仕事になる。
子爵領の事件の時は“神の馬”であるかもしれない野生馬の為に動いてくれた。
リリベルが大神官様にお願いしようとしたその時、ラント様が自らこの場にご訪問された。
マリィ姉ちゃんは秒で、いつの間にか座ったエリオット様の膝から降りた。
姉ちゃん大丈夫!扉が開く前だったから気付かれてないよ!
「何の用かな?聖騎士よ」
大神官様は入室を許したが、ラント様がこの場にいらした理由までは分からないようだ。
「大事なお話中に申し訳ありません。ですが話の内容が、もしかすると私の弟に関する事ではないかと思いまして」
「そなたは既に王家を退いておるから関係ないのではないか?」
「はい。ですが第三王子が私の弟には変わりはありませんので」
「だがもう呪い専門の神官を王子に同行させる事で話はついた。そなたの出番は無いはずだが?」
「大神官様!私からもお願いがあります」
「令嬢?この件に関する事でか?」
「はい。私は、私も今回、南の国に向かおうと思っております。ですが第三王子殿下とは別で向かう予定です。私が殿下とご一緒すると、相手方に余計に警戒されてしまうと思うので。それに南へは馬車ではなく馬で向かうつもりです。ですから私の同行者、兼護衛に殿下の兄君である、そちらの聖騎士様をお貸し頂けないでしょうか?」
リリベルは頭を下げる。
大神官様はラント様を見て「…そなたも、そのつもりで参ったのか?」と仰った。
「はい。私は王族であった時、弟には兄らしい事を何もしてやれなかった。だから少しでも力になってやりたいのです」
大神官様は大きく息を吐いて仰った。
「私がどうして聖女の願いを拒めようか…東の神の助力も受けているというのに」
「大神官様、北の女神の助力も受けているかと」
エリオット様が付け加える。
「なぜそれが分かる?」
「スネイプニルを2頭、令嬢に寄越しております」
「そうか。ではこれは神々のご意志だな。そなたの出動を許可する。聖騎士よ聖女とそなたの弟をしっかり守って来ると良い」
ラント様は大神官様に頭を下げた。
「大神官長と他の大神官達には私から話を通しておく」
「ありがとうございます!」
リリベルもラント様と一緒に頭を下げた。
だが聖女とは?マリィ姉ちゃんの事じゃないよね?
◇◆◇◆
「マリィ、私ね、王太子妃に「ありがとう」なんて言われちゃったわ」
「‥‥‥」
「ちょっと!その顔止めなさい!あんたって昔っから驚くと、いつもそんな顔して」
「お言葉ですが聖女様のお姉様、聖女様はこれがよろしいのですわ。普段の聖女様のお姿からは想像できないような“変顔”巷では“ギャップ萌え”と言うのだそうですわ」
聖女の侍女のサーヤさんが仰る。
「あぁそうねぇ。あんたはそういう天然の“あざと系”だったわね」
「ララ姉ちゃんヒドい…」
「マリィ、リーナへの祝福ありがとうね!未来の国王から取り上げてもらって名前まで貰ったし!聖女に祝福されたなんて!この子の未来は明るいわね!」
「姉ちゃんこそ!計算高い気がするけど…」
「姉ちゃんはタダでは転ばないだけよ。お陰で王太子妃とも雪溶けって感じじゃない?マリィ、あんたは良いわよ。でもリリは背負ってるわ。出来るだけ助けてやってね?」
「リリか〜。ちょっと器用貧乏だよね?」
「言わないのよ!あの子は末っ子だから逆に気付いてないんだから!」
「でも王子だよ?相手」
「あんただってそうでしょ?!」
「えっ?!私?私に王子だなんてっ!」
「ちょっとサーヤちゃん?この挙動不審もギャップとか言わないわよね?」
「これはただの鈍感です」
…どーしてこの子だけ、こんななの?




