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「ねぇ陛下、タナカを飼いたいわ」
「君が毎日、世話を出来ないだろう?」
「ご飯をあげるだけじゃ駄目なの?あっ!お散歩もか」
他人が聞いたら犬か何かのペットの話だと思うだろう。だが実際は危険な馬だ。しかも知性が高くて馬の方が主人を選ぶ。それに選ばれても馬達は気まぐれで、いつもフイッと居なくなる。来る時も突然だ。
今回は学院の期末テスト初日に来た。2頭も。
誰かの嫌がらせか?だったらかなり効果的だったと褒めてやりたい。
もちろんお礼は倍返しだが。
王妃様はタナカに後ろ髪を引かれながらも、陛下に連れられ戻られたそうだ。
それを聞いて、せめて一頭だけでも…遠慮されなくてもいいのにと思った。
でも陛下も赤い髪なので近寄れなかったそうだ。
そしてもう一人、タナカの相手をできそうなミネルバ様は“おめでた”なのだそうだ。
リリベルのテスト最終日、本命のラント様が来て下さった。ラント様は危なげなく2頭の馬の世話をして適度に運動させて帰られたそうだ。サオリも今回はラント様にも少し気を許したらしい。
その厳しい選定基準の中には、やはり金髪碧眼の容姿がわりと高い位置に占めているのは間違いないだろうなと思った。
瞳は青でも緑でも良さそうだ。そしてサオリが心を許す人間には、どの馬達もほぼ心を許している、そんな気がする。
馬達のせいでテスト期間中は精神的にも大変だったが、やっと全テストが終わった。期間中に助けて下さった皆様には本当に感謝だ。
明日から試験休みで、休み明けは赤点者の補修日になるので春休みまでずっと午前中のみだ。
リリベル達、生徒会役員は卒業式と卒業パーティーの準備があるが、昨年もやっているのでそう大変ではない。ただリリベルは生徒会長として在校生代表の送辞がある。
フィジー嬢にSOSを出して協力を取り付けたが、マレシオン様に「君の言葉で送って欲しいな〜最後ぐらい」と哀愁たっぷりに言われてしまい、生徒会室のチューリップを全部、白に変えてやろうかと思ったが、リリアン様の一生懸命世話をする姿を見て思い留まった事は秘密だ。
それにしてもサオリ達はいつまで侯爵家にいるのだろうか?
そもそも何しに来たのかも分からない。私に会いに来た?王都まで?そんなはずはない気がする。
春休みに入ったらザック殿下は、また南の国に行かれる。
自分はどうするのか?まだ殿下とは話し合えていないが、もし自分も行くならサオリ達を置いては行けない気がするのだけど…。
「リリベル」考え事をしていると伯父に呼ばれた。
伯父はまた明日、伯母達を迎えに東の国に向かうらしい。
「リリベル、これをお前に渡しておく。時間のある時に読むといい」
伯父は王妃様の手帳をくれた。
「生徒会と南の件で忙しいから今はそれどころじゃないけど」
「そうだな。だが日記は逃げないから全てが終わってからゆっくり読め」
「伯父様は全部読んだの?」
「ああ。全部お前の言った通りだった。まあ後は読めば分かる。話は変わるがリリ、私は今回、火山の国の件について、それとなく北の陛下にお前への助力を頼んでいた。それで魔石が届けられたのだとは思うのだが…多分、それだけではない」
「伯父様、どういう事ですか?」
「私が思うにサオリ達を寄越したのは陛下なのではないか?という事だ」
「2頭とも…」
「リリ、マリィに火山の国からの呪いの件は相談したか?」
「ううん。姉ちゃんの防御壁のお陰で防げているから、言わなくてもいいかと思ってた」
「リリベル、北からの子爵領侵攻の件の時と同じように、ちゃんとマリベルに話して助けてもらえ。魔法でも物理での攻撃は王国騎士団の管轄だが、呪いによる攻撃は神殿だ。特に王子が狙われている事案なら大神殿も助けの手を差し出すだろう」
「つまり子爵領の時のように、また手伝ってもらえるって事?」
「当然だろう。それに白馬は2頭だ。乗れる人間は限られる。かつ第三王子のもう一人の兄は誰だ?」
「!!!」「そういう事だ」
リリベルは直ぐに大神殿に連絡をしてマリィ姉ちゃんに会いに行く手筈を整えた。




