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「マレシアナ、リリベル嬢はとうとう父上まで味方に巻き込んでいた」
「陛下をですか?そうですか。恐らく、一緒に子爵領まで行った時ですわね。時間は十分にありましたから」
それにアイザック殿下の縁談を穏便に阻止すれば、殿下を褒美にあげるとまで約束したらしいですからね…。
「父上に謝られたんだ」
「何をですか?」
「父上が母上を選んだから、国内での王家の心象が悪くなっただろ?そのせいで私達には早くからお互いを付けれていた。だから私達は自由に恋愛する事も許されなかっただろう?って」
「まあ…陛下がそんな事を?」
「それだけじゃない。これ以上、王家のイメージを悪くしない為に私達には制約も教育も厳しかっただろう?ってそういう言葉も含まれていたと思う」
「そんな事、思いもしませんでしたわ。王族だから厳しくて当然なんだと」
「私だってそうだ。ザックが自由にしていても、私は王太子なんだからと誇りを持っていたしな。だが…」
「殿下?」
「マレシアナ、私はもう今後一切、君を“緑色のベル”の事で煩わせない事を誓うよ!君も、もう聞いたかと思うのだが、ララベル夫人の出産に立ち会ってきたんだ。凄かった!あんな大変な思いをして女性は子供を産むんだな。とても神秘的な光景だった。君が私の子を二人もあんな思いをして産んでくれていたなんて」
「殿下…」
「それに!また“ベル”にしてきてやった!」
「はっ?」
「名前だよ。瞳がエメラルドグリーンだったというのもあったけど。ララベル夫人の娘の名前を“リーナベル”と名付けてきたんだ」
‥‥‥それは。
「きっと避けたい名前だったよな〜でも面白くないか?それにカテリーナ様の命日だったから、何か自分的にも思うところがあったんだな」
「彼女らは全面拒否してこなかったのですか?」
「ああ。リリベル嬢は明らかに不満顔だったが、ララベル夫人は意外に「ま〜いっか」って言ってた」
「そうですか」
「なあマレシアナ。ララベル夫人のお産は驚く程スムーズだった。恐らくリリベル嬢が何かしたんだが、彼女もまた、それだけじゃないぐらい慣れていたしお産の誘導も上手かった。あんなお産だったら君にも王子を抱かせてあげても良いと思ったよ」
「!」「まあ、まだ先の事だけど私達も若いから、だから考えてもいいかなって。次は君の子も私が取り上げるぞ!任せとけ!」
「…そうですか」
「だからさ、もし君がそろそろまた子供を持ってもいいかなと思ったら、アレを着てくれないか?」
「アレ…ですか?」
「そう。ライオットが南の土産に持って来た、私の色のヤツ」
「…分かりました」「フフ。楽しみだ」
「‥‥‥」
◇◆◇◆
「リリベルちゃん!ただいま〜!!」
ある日、侯爵夫人がいきなり帰国してきた。
「侯爵夫人?!どうされたんですか?」
「子供達はお義母様に任せてきちゃった。公演もあと1ヶ月だから春が来る頃には戻って来るわよ」
「ええっ?そうじゃなくて何で夫人だけ?」
「だってねぇ!うちの娘が殿下方と仲良くなっちゃって、離れたくないって言うの。義弟も面倒見てくれるって言うし甘えてきちゃった」
「ああ、お帰り。リリ、私の妻はこういう時は聞き方があるんだよ。それで君は、こちらには何をしに帰国したんだい?」
「あなた!ただいま。ララちゃんが小説書くんでしょお!それを聞いたらジッとしている訳にはいかないじゃない!」
さすがアイオット様、伊達に10年以上夫婦してないな。
「すでにユノゴー氏が執筆に入っておられると思いますが」
「そう!それじゃあ早速、見に行かないとね。ねぇリリベルちゃん、ララちゃん出産したんでしょう?もう面会できるかしら?」
「産後の肥立ちも良いみたいなので大丈夫だと思います」
「そうなのね!早速連絡入れないと。あっ!そうそう。これお義父様に頼まれた物よ。間に合ったから持って来たわ。リリベルちゃんの恋バナも、こっちが終わったら、まとめて聞くからね!ちゃ〜んと第三王子殿下を奪還するのよ!」
侯爵夫人は嵐のように帰って来て、そしてまた駆け抜けて行った。
「何だい?リリそれ?」
「『最新版!カレー食べ歩き火山の国〜今、現地はスープカレーが熱い!』と『スパイス天国火山の国〜自分のオリジナルをブレンドしてもらおう!』です」
「次は子爵領でカレーでも作るのかい?」
「いいえ。大事な私の戦略ブックです」
「そうかい。奥が深いねぇ」
最新版の必要性が分からないが伯父がわざわざ依頼してくれたんだ…テストが終わったら、ちゃんと読破しとこ。
そして月日はあっという間に経ち、期末テストが始まる初日という日の早朝、リリベルは勉強し過ぎでパンパンの頭に幻を見た。
「白いおウマ…ここは子爵領?」
「お嬢様!ここは王都の侯爵家ですが大丈夫ですか!」
「あ…侍女さん、おはよう。2時間は寝たと思うの。だけど外に白い馬が見えてぇ…あ、まだ幻見える…」
侍女さんが、ガバッと窓の外を見て慌てて廊下に走って行った。リリベルがボーッと顔を洗っていると目が覚めた!
「何で白馬いるのー!」
と慌てて着替えて下に降りると伯父が「あれはサオリじゃないか?」と言って玄関に立っていた。
ドアを開けるてみと、やっぱりサオリだった。
「何でいるのサオリ?誰と来たの?もしかして一人で来たの?」
リリベルが近付くと、ご機嫌に鼻を鳴らした。
まるで「目立たないように夜間に走ったからね!」って言っているかのようだった。




