304
「でも姉ちゃん、リーナベルちゃんは早産だったけど健康に産まれてきて良かったね。体もそこまで小さくはなかったし」
「そうねぇ。姉ちゃんはずっと忙しくてちょっと生理不順だったの。だから妊娠に気付くのも遅れたし、もしかしたら妊娠周期も少しズレていたのかもしれないわ」
「9ヶ月じゃなかったってこと?」
「でもお腹も長男の時ほど大きくなかった気もするの。だから9ヶ月の後半くらいだったのかしらねぇ?」
「体にも随分負担をかけたよね?こっちに里帰りもしたし、子爵領にも帰ったから」
「それはそうね。きっと私のお腹の居心地が悪かったんだわ。だから早く出てきたかったのね」
「ララ姉ちゃんは、いつ頃、南に戻る予定なの?」
「第三王子殿下の件が片付くまで帰ってくるなと、今朝、ダンナから手紙が届いたの。何かダンナや我が家にも呪いみたいなのが仕掛けられていたみたい」
やっぱり火山の国は呪術が盛んなんだ。しかもマリィ姉ちゃんの防御壁に阻まれるという事は、それなりに威力もある。
次回の春の訪問はより警戒が要るだろうな。マリィ姉ちゃんにも、また相談しとこう。
それからまた少し経って期末テストの時期になった。
期末は実技試験も学科によっては含まれるので、高位貴族ですら事前情報に頼れない。それに引っ掛け問題や謎かけのような問題も出されることが、これまでの傾向から判っているから学院内の雰囲気は試験一色で殺伐としていた。
リリベルも他人事ではないけど、ザック殿下まで…
「リリベル嬢、悪いけど俺しばらく学院も休んだりしたから勉強頑張るわ。だからテストが終わるまで、学院内でも接触は最低限で!」
と宣言された。寂しいが仕方ない。
恐らくザック殿下はまた首席を狙ってくるんだろう!
だったら私も万全でそれを迎え撃つまでだ!
「で、それを私の前で宣言しなくても良くない?」
「あ、スイマセン。ついっ」
リリベルは王太子妃様に再び面会しに来ている。
でも今日は執務室ではない。応接室でお茶会スタイルだ。
「あなたのお母様のお茶菓子には負けるかもしれないけど」
と王城シェフの作ったお菓子を出してくれるが、そんな事とんでもない!
「母の味は素朴なだけで王城のシェフに敵うはずがないですよ」
「でもその味を王妃様はお気に召したのね。特に朝食時は子爵領から持ち帰った“マイバター、マイジャム、マイティー”を召し上がると評判よ」
「私は王城の物の方が見た目も美しいし、食べても美味しいから大好きです」
「そう。でも子爵領の食材は王妃様にとって北の物と近くて懐かしいのかもしれないわね」
「それは違うと思います。食材は全部、西の国の物と変わりなく珍しい物は一切無いですし。でも一つ違うとすれば爺様ですかね。爺様の育てる野菜と爺様の育てる飼料で育った乳牛や家畜は違うのだと思います。恐らく小麦、卵、ミルクやバター、チーズまで」
「成程ね。緑の手の持ち主はそこまで影響が及ぶのね。ところで話は変わるわ。先に言っておくけどアイザック殿下との件は両想いおめでとう。また火山の国の件は学院のテスト終了後に話しましょう」
てっきりザック殿下との事だと思ったから拍子抜けだ。
「今回は王太子殿下が付き添われたララベル夫人の出産の件なんだけど」
ギャー!ヤバいそっちかー!?
もしかしたら王太子が赤ん坊を取り上げた事?
いや名付けた事?両方とも?をお咎めになるのだろうか?!
「ララベル夫人が出産を終えられた後、王太子殿下は私の所に飛んで来て『出産の大変さを目の当たりにした!』と大興奮で仰ったの。あなた方が出産の場に殿下を入れた事にも驚いたのだけど…」
あ〜やっぱりお怒りですか?!
「でも、もっと驚いたのはララベル夫人が陣痛にそれ程苦しまず、非常にスムーズに赤ちゃんを産んだ事よ。本来なら、多くの女性は他人に、特に男性に出産シーンを見せる事を躊躇するくらい苦しむわ。出産時のピークには出血もあるし凄惨な場になる事も多いしね。なのに殿下は全くその点には触れず、赤ちゃんまで取り上げたなんて言うじゃない!」
王太子…言っちゃったんだ…それは大丈夫だったの…?




