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今回のナル兄ちゃんのパートナーはダイアナ様になった。他の令嬢には申し訳ないが、やはり兄に紹介した令嬢の中で一番、素敵なのはダイアナ様なのだ。
兄にもそれが分かったようで前座の令嬢投入には文句がありそうだったが、今のところは睨まれるだけで済んでいる。
兄はダイアナ様をエスコートする為に伯爵家に手紙を送ったが、自分は子爵家だから断られたらどうしようと普段には見られない弱気さで、リリベルを驚かせた。
「弱気のナル兄ちゃん、初めて見たよ」
「リリ、こういうのは違うんだよ。それに断られたら、また新しい令嬢を探さないといけないし」
「大丈夫だよ兄ちゃん。兄ちゃんには筆頭侯爵家がバックにいるし、姉ちゃんは聖女様だよ。断られる要素が無いよ」
それに私達、世間では妖精だの何だのと言われているんだよ。と心の中で言う。
「リリ、いくらバックに筆頭侯爵家がいても、俺はただの使用人なの。それに姉ちゃんは関係ないよ」
ふふ、兄ちゃんもある意味、世間知らずだ。
「そうかなぁ。兄ちゃん、世の人は私ら子爵家に妙な妄想を抱いて勝手に有難がっているみたいだよ。私、最近、分かるようになったんだ。多分、父達のせいだけど」
私は王太子殿下から「緑色のベルは人を誑かすだけ」と言われてから伯父に尋ねた。
そもそも“水色と緑色とは何なのか?”と。
伯父は侯爵邸にあるオリベル王女の肖像画をリリベルに見せながら「これが“水色のベル”のルーツだよ」と言った。
「じゃあ“緑色”は?」と聞くと伯父は無言だった。
「何の妄想だろ?」兄が呟く。
「兄ちゃんはオリベル王女の肖像画を見たことがある?」と聞いてみる。
「ああ、マリィ姉ちゃんかと思った。でも古さからして先祖の誰かかなって。そしたら伯父が君達の曾祖母になるオリベル王女だよって」
「だから俺、父の女装姿じゃなくて良かったって言ったんだ」
「確かに」私達はおかしくて、しばらく笑ってた。
兄の反応の方が私からすると正常だ。
伯爵家からは無事にOKの返事が来た。秒で返信来てたから、やはりリリベルの思った通りだ。恐らくダイアナ様よりも伯爵家の親世代が兄を望んでいる。
「兄ちゃん、ダイアナ様のお迎えは少し早めに行くのがいいよ」
「もちろん余裕を持って行くけど?」
「ダイアナ様のお姉様は、聖女候補だったんだよ」
「!?それは、捕まるな」
「でしょ」
特にナル兄ちゃんは伯父の作り出した最強の“水色のベル”だ。
伯父がリリベルの質問に答えられず、無言になった時、リリベルは言った。
「伯父様は子爵家の先祖達の肖像画は見たことあるの?」って。
恐らく無い。
父に聞いてなければ知らないだろう。あそこは家族くらいしか行かない場所だし、普通は他人を案内しない。
でも伯父は一度、見たほうがいいだろう。
「オリベル王女に似た人が男女共に歴代飾ってあるよ。水色も緑色も沢山いる。私達にはオリベル王女だって見慣れた大量生産なんだよ」
と言ったら、しばらく絵の前で驚いてたなぁ。
つまり“水色も緑色”も伯父が勝手に作り出しただけのものだ。
たまたま、うちが全員“ベル”だったのもいけなかったのだ。
子爵家が変に神格化されていることに、父の出不精が更に輪をかけた。
リリベルはそんな他人が作った勝手な妄想に当てはめられるのは真っ平ごめんだと思った。