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それから数日経って、私は学院が休みの日に伯父やアイオット様に託された出産祝いを抱えて伯爵家を訪れた。
案内されて部屋に入ると姉とご長男がゆりかごを揺らしながら二人仲良く子守唄を歌っていた。
「姉ちゃん、子守唄歌ってる!」
リリベルは驚いて、つい言ってしまった。
「何言ってんの?普通の事でしょ!」
と姉はそう言ったけど…そうだった…これも姉に言ってなかった。
「姉ちゃん実は子爵家は音痴の呪いがかかっているの。でも子爵家を出た姉ちゃんにはもう関係ないけど」
「はあ!?」
「お母様、リーナが起きちゃうよ」
「ああ、ごめんなさい。よしよしリーナ」
「リリ、まだ何かあるの?そろそろ姉ちゃん疲れてきたわ。外交官になり立ての時だってここまで色々無かったわよ」
「ごめん。さすがにもう無いと思う。それに呪いは大丈夫だよ。子爵家を出ると解けるらしいから」
「へえ。それはお母様の変な歌も関係してるのかしら?」
「そうそう。でも本人は普通に歌えているつもりだったんだって」
「お母様らしいわ」
「姉ちゃんには関係ないって思ってたからすっかり言うの忘れてたんだけど、ちゃんと歌えているのを見ると、やっぱり驚いたわ」
「リリも歌えないの?」
「うん多分。あと楽器もダメだ」
「そうなんだ〜納得。姉ちゃんさ、侯爵家にいた時ピアノを弾けるようになりたくて伯父様にお願いしたの。でも全然ダメだった。手も動かないし音程も拾えないの。それって呪いのせいだったのね」
「うん。きっとそう」
「そっか。今は忙しいけど、また手が空いたらピアノを習ってみようかな。娘と」
「それ、いいね」
また姉ちゃんが歌っていると今度はご長男も寝てしまって、伯爵様が抱いて寝室に連れて行った。
「もうあの子も重いからお義母様や侍女では抱っこできないのよね」
「姉ちゃんは乳母を持たないの?」
「そうね。外交官なんて仕事してるから移動ばかりでしょ?子守の為に侍女とメイドは多めに雇ってもらっているけど基本は自分で見ているわ。外交官じゃなくても下位貴族なんて皆、そんなもんよ」
「姉ちゃん、あの日…お墓参りの時、王太子殿下と何を話したのか聞いてもいい?」
「特に何も。でもあの人詫びてきたの。自分が私に構ったからマレシアナが済まないって。でも何か違うって思ったから、王太子妃様に夫を紹介してもらえて良かったって言ったの。そしたら殿下が変な顔?何か情けない顔になったから、つい可笑しくって笑っちゃったの。そしたらお腹に力が入ったのね破水しちゃって」
「それから王太子殿下の護衛が私に知らせてくれたのね?」
「そう。王太子殿下は真っ青になっちゃって私を横抱きで抱えて王城の医務室まで走ったのよ。護衛も代わりますって言ったのに『触んな!私が運ぶ。お前はリリベル嬢に知らせろ』って。ちょっとカッコいいって思っちゃったわ。それに殿下はちゃんと鍛えてらしたのね。危なげなく運んでくれたわ」
「医務室に入ったら王太子が姉ちゃんの手を握って離さないから驚いたわ」
「フフフ。でもまさか出産にまで立ち会われるとは思わなかったわ」
「追い出さなかったの?」
「だって『私が手を握っててやるから大丈夫だ!』って言うんだもの。陣痛もきてたし、もうどうでも良くなったわ。まあ家族は喜んだのよ将来の国王に子供を取り上げてもらった上、名前まで付けてもらったってね」
「ドラ美でも王族が付けた名前だったじゃん」
「あいつらのはただの嫌がらせよ!単に面白がっているだけなの!」
やっぱり王太子殿下はララ姉ちゃんが好きだったんだな〜。
好きな人の出産に立ち会うなんて減滅しなかったのだろうか?でも王太子殿下は満足そうにされていたから、もしかしたら立ち会えた事で、ちょっと姉ちゃんの夫気分?を味わえたのかもしれない。
しかも名付けの機会までもらって…ああそうか!
姉ちゃんの殿下への配慮だったのか。多分、これで王太子殿下はララ姉ちゃんをちゃんと吹っ切れて、妃殿下一筋になれたんだ!
やっぱララ姉ちゃんは最高に“イイ女”だった。




