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「義姉上、俺、リリベル嬢と両想いになった!」
「あ、そう」「え?それだけ…?」
「だってそんなの二人を見ていたら分かるじゃない。それにあなたの情報を彼女に提供していたのは私だったし」
「でも義姉上、彼女との仲を深めるなって…」
「あら、そっちを気にしていたのね?だったらもういいわ。縁談は断るのでしょう?」
「ゴメン。俺、王族の義務を放棄した」
「別に構わないわ。火山の国は遠過ぎてあまり旨味は無いのよ」
「でも南の国は…」
「南の国でも自由にしていいって言われたんでしょう?だったら好きにしていいのよ。彼らは誇り高い龍神の末裔よ。あなたの犠牲の方が彼らの誇りに傷を付けるわ」
「本当に?!」
「ただ計画は少し見直しね。補佐官達は縁談が断れず困った様子を見せて、リリベル嬢に潰させる計画だったのでしょう?まあ実際に断るのにかなり面倒そうではあるわよね」
「それは補佐官達にも報告して計画の変更は無いって。それに両想いになったら、余計にリリベル嬢が俺の縁談を潰しにかかるだろうって」
「確かにそうだわ!良かったじゃない」
「でも!それはおかしいだろ?彼女頼みだなんて。ちゃんと俺が出て話をして女王を納得させる」
「殿下にできるかしら…」
義姉上は溜息を吐きながら言う。
「そりゃあ!俺はまだ女王に太刀打ちできる程じゃないけど…確かに実際、全く敵わなかったけど、ちゃんと伝えれば!俺の気持ちを」
「殿下、相手はもう殿下の気持ちを知った上で交渉しているのよ。あなたの気持ちなんてどうでもいいの。価値はその身分と赤い髪なのよ」
「だったら!尚更、リリベル嬢に何ができると言うんだよ!」
「分からないわ。でも侯爵家は“リリベルに任せとけ”って言ってたわよ」
「それもう終わってるんじゃないのか?」
「さあ、それにそんな事知った事じゃないわ。期限まで言われてないもの。補佐官達もそのつもりでいるし。それにご褒美だそうよ」
「は?何の?」
「穏便に殿下の縁談を潰せたら、陛下があなたをご褒美にリリベル嬢にあげるそうよ」
「!!!」
「王太子妃殿下!大変です。今、王太子殿下の侍従から連絡が入りまして、王家の墓参り中にララベル夫人が破水したそうで王家の医師と神官達が対応しているそうです」
「まあ!それはラッキーだったわね。良い場所で破水したわね」
「義姉上!そんな事言ってる場合なのですか?!確か夫人はまだ臨月ではなかったはずです」
「そう。でもリリベル嬢が付いているのでしょう?なら大丈夫よ」
「それが…妃殿下、王太子殿下も付いておいでで…」
「兄上が!」
「まあそうなの?フフッあの人に何ができるのかしら?恐らく右往左往しかできないわよ。男ってそんなもんよ」
そう言って義姉上は笑うけど、本当に大丈夫なのか?
「義姉上、俺も様子を見てきます」
「分かったわ。何かあったら、いや産まれたら教えてちょうだい。二人目だから多分、今日中よね」
俺は義姉の執務室を出て王城内の医務室に急ぐ。医務室の前に着くと外のベンチに前侯爵と兄上の侍従で彼女の兄でもあるベルトルト伯が座っていた。
そしてライオット卿が落ち着きなくウロウロしている。
「前侯爵!兄は?」
俺が声を掛けると「実は中に…」と返ってきた。
「何で…?」
「王太子殿下はずっと妹の手を握っておられて、リリベルが来ても、そのまま離れず中にいらっしゃったままで…」
「それは大丈夫なのか…?」
「さあ…でも妃殿下の出産にも付き合ったからって仰っておりましたが…」
「その時は中までだったか?」
「いえ…」「‥‥‥」
医務室の中から夫人の苦しむ声が聞こえてくる。
「姉ちゃん、もうちょっと待って!まだ頭見えない。陣痛の痛みは取るから!」
「あいつ出産も手伝えるのか…?」
誰かがポツリと言った。確かに医者や神官の出る幕がない気がする。
「馬の出産は立ち会ったそうだぞ」
馬と一緒か?!多分、この場の皆が思っただろう。
「姉ちゃん!息を大きく吸って小さく吐いて、まだいきみを逃すのよ!」
「はぁ。リリのお陰で随分楽になったわ。治癒魔法って凄いのね」
「殿下!今のうちに姉の水分補給!」
「あっ分かった!」
王太子が近くにあった水の入ったコップを片手で取って姉に飲ませる。左手は姉の手を握ったままだ…。
「殿下ありがと」姉は一息つく。
そして、またいきみが来ての繰り返しがきて、とうとう赤ちゃんの頭が見えてきた。
「姉ちゃん!今だ!」
姉がゆっくり大きくいきむ。ゆっくり赤ちゃんが出てくる。
良かった予定より1ヶ月早いが、小さ過ぎない大きさだ。
それにちゃんと生きている!動いて真っ赤になっている。
もう一息!そんな時…
「リリベル嬢、私が赤ん坊を取り上げても良いか?」
へ?王太子?何言ってんだ!だが時間がない。
「誰でも良いから取り上げろー!」姉が叫ぶ。
とっさに王太子がリリベルのポジションを奪って赤ちゃんを取り上げた。
何て事をー!!




