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「そうか。殿下とリリベルはついに両想いになったと」
「ああ。だから彼女に言ってしまったんだ。縁談は断りたいし火山の国にも行きたくないと」
「まあ!良かったじゃないの」
「そうだな。だったらリリベルは余計に動くだろう。殿下の縁談を潰しにな」
「そうそう。どうせリリベル嬢に潰してもらう計画だったから、別に何も変わらないわ」
俺は補佐官達にリリベル嬢と両想いになった事を報告し、計画の見直しが要るのではないか?と二人に相談をしたのだ。
「だが、あの女王相手に大丈夫なのだろうか…」
「どうせ誰かが断るんです。我々はすでに言葉で伝えているし、南の王家からも伝えてくれているでしょう。だったら次は当事者の恋人が出て来る順番では?」
「えっ?!そういうものなのか?女王に子爵令嬢って!普通は考えられないだろう!」
「普通、そうなんだけど彼女ならイケる気がするのよねぇ」
「不思議だよなぁ」マジか?!
◇◆◇◆
カテリーナ様のお墓参りの3日前、私はララ姉ちゃんのいる伯爵家を訪問した。お屋敷には伯爵ご夫妻がいてリリベルの事も歓迎して下さった。
確か公爵家傘下のお家だったはずだが、伯爵夫人が紫色の瞳をされていた。
姉ちゃんのご長男はちょうどお昼寝されたばかりだそうで、静かに居間に移動する。
「姉ちゃん、伯爵ご夫妻はとても優しそうな方々で良かったね」
「ええ。学院中退の私でも優しく迎えてくれたし、お義母様はわざわざ西の大陸まで来て下さって妊娠中も出産後も私が慣れるまで、ずっと手伝って下さったの」
「姉ちゃんが大事にされてて私も嬉しい。お義兄様には兄君がおられるんでしょう?」
「そうなんだけど、お義母様達が王都に来ている間は領地に行かれているの。だからいつも入れ替わりね。でも義兄夫婦も良い方よ」
「そうなんだ。あのねララ姉ちゃん、報告があるの。あと相談も」
「そう。何かしら?」
と姉は聞くけど何だか分かっているみたいでニヤニヤしている。
「姉ちゃんったら、凄い勘だわ。ナル兄ちゃんの事も直ぐに気付いたし」
「あらやっぱり当たりなの!おめでとうリリ。とうとう両想いね。相手は第三王子殿下なんでしょう?」
「うん。お陰様で。まあそれは一旦置いといて、今度は相談の方なんだけどね〜」
私は子爵領からの帰りの宿泊地でララ姉ちゃんに爺様の生い立ちと一緒に、王妃様と北の王子の話もした。そして王太子が語った王妃様の日記の話。あの時は王太子の話を全部信じた。だけど自分が恋をして考えてみたら、考えが変わったのだ。
好きでもない人をずっと側に置くの?それは北の王子もだ。それに2人は愛情深いのに2人の王女を愛さない事なんてあるの?
同じ問いかけを姉にしたら姉ちゃんも私と同じ意見だった。
しかも姉は王妃様は聖女の秘技でカテリーナ様を妊ったんじゃないかとまで!
あり得るから怖い。
恐れ多いが馬車の中で陛下にも尋ねてみた。王妃様の日記の件も。
陛下は王妃様の日記は、ずっとご覧になれる心境ではなかったそうだ。
それは王妃様も同じで…。
だから今となって改めて読んでみると仰ったのだ。
だから内容を確認するのは王太子にではなく陛下にだ。
そしてリリベルは何と陛下と賭けをした。
もし王妃様が王太子の言う通り国王を好きだったら日記は国の物。でも北の王子が好きだったら子爵家の物。
陛下は面白がって賭けを受け入れて下さった。
それで日記が手に入る算段がついた。
どうせ王妃様が国王を好きだったら伯父は日記を要らないだろう。伯父の関心は全てオリベル王女中心なのだ。
そして伯父はきっと日記の存在を知っていた。
その内容を知りたくてあの日、指輪を置いて王太子の出方を見たんだ。王太子はまんまと指輪に興味を示したけど、日記の事を言うまでには至らなかった。
なんせあの場に陛下の婚約者候補だった神官様がいらっしゃったし、消えた王妃の子供の行方と、北の王子の逃げた先の方が衝撃的だったからだ。
今、思うとリリベルは伯父が置いた水色の石の指輪を本物だと信じてた。だが腹黒の伯父が王太子の腹を探るのに本物を使うはずがないのだ。
チクショー!私は伯父にも一杯食わされていた。
だが伯父はこれまでリリベルや兄妹、子爵家の事も沢山助けてくれていたのだ。だからそんな事に利用されるぐらいでは、まだまだお釣りの方が大きい。
だからもし王妃様の日記の事実がきちんと判って、更に手に入るならお釣りは少し減るだろう。
「ララ姉ちゃん、身重なのに悪いんだけど、だからカテリーナ様のお墓参りに一緒に来て欲しいんだ」
「そんな事ならお安い御用よリリ。そうね王太子殿下も出て来るかもしれないわね。姉ちゃんとしても決着をつける時ね!」
王太子殿下もちゃんと初恋を昇華させて欲しい。




