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王家主催の納涼舞踏会は学院の夏休みの初めに開催される。ほとんどの貴族が参加する中で、遠方の貴族はその後の王都での夏の社交にまとめて参加しやすくなるのと、学院生がそのまま親と領地に帰れるようにする配慮なのだとか。
だから学院の寮も納涼祭までは居ることができる。その後、寮は閉まり、次の学期が始まる1週間前にまた開くが、実家が遠くて帰れない学生の為に、色々、住み込みのインターンシップやキャンプ、神殿、孤児院でのボランティアなどもある。特にインターンシップはお給料も稼げるので人気だ。冬場も同様にある。
うちの両親は子爵領から出てこないし、私達は侯爵家にお世話になるから関係ないけど。
納涼舞踏会はお酒が飲める13歳から参加できるけど、参加するには保護者同伴で大人から離れてはいけないので、学院入学の歳の15歳以上になってから参加する事が多い。
この国の成人は15歳だから15歳になると大人から離れても大丈夫だ。舞踏会は、未婚の男女が婚約者を探すイベントでもあるのでお子様の参加は邪魔なのだ。
私は15歳にはなっているけど、侯爵家のご長男達とお留守番するつもりでいた。お祭りは好きだけど舞踏会には興味が無い。
しかし、まただ。また殿下から召集令状が来たのだ。殿下、寂しいのか?側近ができたばかりで、まだ仲が良くないのかしら?
お陰で侯爵夫人達が大喜びだ。今も本命のナル兄そっちのけで私のドレスを選んでいる。
えっ!赤はダメだ赤はイカンだろ!だってザック殿下の色じゃんかー!そういうのは婚約者しか着ちゃいけないんだよ。さすがに私でも知っているよ。瞳の色の青もできれば控えたい。
そもそも私はパートナーではなく側近だから。それに子爵家では王家には嫁げないのだ。
私は今、淡いスミレ色にシルバーのオーガンジーを重ねたフンワリ可愛いドレス姿だ。伯母達は大満足だが何か忘れてないか?
これって誰かの色…恐怖の“紫タマネギ”じゃんかー!これもダメなヤツ。
「何が、チッ気付かれたかだ」公爵家の色も絶対ダメでしょ!
リリベルは光沢のあるワインレッドの生地に花柄の刺繍とレースの可愛いドレスに着替えた。やっとマシなドレスが出てきた。
まさか侯爵家まで危険に満ちているとは。
リリベルは「早くマリィ姉ちゃんの所に逃げなければ」と思うのだった。