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「マリィ姉ちゃん!西の沿岸地域の遠征お疲れ様」
「マリィ、大変だったわね。南の国のお菓子をたくさんお土産で持って来たわ」
「わーっ二人共ありがとう!」
マリィ姉ちゃんは、ただ今、新年の休暇中なのでララ姉と2人プラス甥っ子を連れて大神殿に会いに行った。
「甥っ子ちゃんも久しぶりだ!大きくなった!」
「聖女様、ごきげんよう!あなたの手に口付ける許可を」
彼は礼を取りながらそう言って、唖然とするマリィ姉ちゃんの手を取って甲にキスをする。そして満足したのか戻ってきて、やはりリリベルの膝の上によじ登る。
こらっ許可してないぞ!
「ハハッ…ちょっと叔母ちゃんドキドキしちゃったよ…」
「マリィ‥ゴメンね。リリも」
今年は秋からマリィ姉ちゃんの西の海岸沿いの遠征があった為、聖女候補の同窓会は残念ながらできなかったそうだ。
「わっ!この黒い棒、何?」
「ヨウカンっていう南のお菓子よ。本当はナイフでスライスして食べるのだけど、あんたはそのまま齧りなさい」
「へえ、わっ栗が入ってる!美味しいぃ」
「姉ちゃん、このお菓子には緑茶が合うの。熱いから気を付けて」
「本当。美味しい!身に染みるぅ」
「もう沿岸部分は落ち着いたの?」
「うん。なんかさナルが神々しくてね?セノビックに跨がって現れると、『もう勝利した!』みたいな雰囲気になるのよ。私、あまり出番なかったかも」
「そんな事ありませんわ。聖女様が弟君を影で叱咤激励なさっておいでだったから、あそこまで彼も奮闘なされたのですわ」
姉の侍女のココットさんが上品にヨウカンをフォークで召し上がりながら仰る。
やっぱりナル兄ちゃんは姉ちゃんにお尻を叩かれたのね。
「ねえマリィ、ナルはまだ戻れないのね?侯爵領は、まだ誰かいないと駄目なのかしら?」
マリィ姉ちゃんとココットさんが顔を見合わせる。
「それは…ねえ」やはり歯切れ悪いな2人とも。
アイオット様と一緒だ。
「まあいいわ。そのうち良いお話が聞けるんでしょ?ナルにも早めの春が来たのね〜」
えっ兄ちゃん、そのせいで戻って来ないの?
「さすがララ姉。でもまだ何も言えない。ナルも頑張っているところだから」
「へえ、ナルが頑張るような娘なんだ。ってかナルに頑張らせるなんてスゴい娘だわ!」
我々はナル兄ちゃんの話題でしばし盛り上がった。
「ねえマリィ姉ちゃん、姉ちゃんが遠征している間は防御壁は大丈夫なの?」
「うん。どこででも点検はできるし場所が変わっても毎日の生活がそんなに変わるわけじゃないよ」
「そうか。じゃあ異常は無いのね」
「?」「リリ、何か気になるの?」
「ううん。防御壁に何かあればどのレベルで姉ちゃんに分かるのかと思って」
「ああ。北の陛下レベルの接触はそうそう無いわ。それに国境沿いに暮らす人が生活で越える分は感知しないの。言い方悪いけど例えるなら鳥獣レベルって事ね」
「あとは悪意あるものだったら呪いとか呪い系は、壁に当たると「コツンッ」てぶつかる程度?」
「え?呪いとかも弾くるの?」
「国内でやられたら分かんないかな。でも国境を越えるものだとさ、悪い物と認識するのか、たまにコツンってなるよ。誰だよ外国で恨まれたヤツ!って毎回思うくらい?」
って姉ちゃんは笑うけど、それって笑いで済ませられるの?
「ああでも最近、年末は多かったかなぁ。呪いもかき入れ時とかあるのかな?まあ年明けてから治まったけど」
やっぱり何か笑えない気がする。
それから後日、ララ姉ちゃんの希望もあって、ユノゴー氏との面会機会も作った。ユノゴー氏も姉と会っても何事も無かったように再会を喜んでいた。
「ねえビクトル様!今はお仕事お忙しいの?リリベルに王太子とルト兄の恋愛小説を書いたって聞いて読んでみたのだけど、とても良かったわ!」
「それは、お褒めに預かり光栄です。そして今は自分の詩集を考えているくらいですが、何かご要望が?」
「そう。私と夫の話も構想にあったと聞いたのよ」
「えっそれは…子爵ご夫妻のですか?」
「そうよ〜ビクトル様は聞いてないの?リリ?」
「夫人達がどこまでユノゴー氏に相談されてらしたのか私も分からないよ、姉ちゃん」
「美し過ぎる令嬢に囚われた学園教師よ!ビクトル様聞いてない?」
「姉ちゃん!自分で美し過ぎるとか言って、兄ちゃんのも“美しい侍従に囚われた王太子”だよ」
「リリベル、それは第一弾よ。第二弾の小説は“美し過ぎる侍従に囚われた王太子”になってたわよ!」
「!!」
「あら気付いてなかったのね?自分が考えた話だったのに」
全く違和感なく小説を見てた!何て事だ!それに私も途中から“美し過ぎる”と言っていたかも!
題名をプチ改訂されていたなんて!
リリベルがユノゴー氏をジトッと見ると「てっきりお気付きかと…」と慌てている。
「いいです。どうせ夫人達の仕業ですから」と言うと、ユノゴー氏は誤魔化すように「それでその“美し過ぎる令嬢に囚われた学園教師”を題材にして小説になさるのですか?」
「姉ちゃん、それは令息向けになるの?題名からして18禁だよね?」
「そうねぇ。だって女性ばかり侍従の作品で盛り上がってつまらないでしょ?男性も盛り上がりたいんじゃない?」
「姉ちゃん!女性と男性は違うでしょ!自分を切り売りするのはちょっと!それにお義兄様は何と言うか!」
「フフッ分かったわ。そしたら侍従同様18禁と13禁にしましょう。13禁は婚約者のいる令嬢が学園で新米教師と恋に落ちる悲恋にするの!18禁は色んな男性を虜にする蜘蛛のような令嬢の魔の手が真面目な教師にまで伸びるハラハラ、サスペンス的恋愛にしましょう!」
ええっ!ユノゴー氏大丈夫?
だが18禁は、ほぼ女版侍従だな。
最早、姉と夫の馴れ初め話からは逸脱しているよね。
しかしユノゴー氏を見ると彼は顔を上げて「もっと詳しく!」と仰っている。
「いいわ!ビクトル様!ペンをお取りなさい!」
わー姉ちゃん!
その日、姉は夜遅くまでユノゴー氏と語り、侯爵邸にお泊まりになった。




