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帰りの馬車の中、滞在はたったの4日だったのに、まるで1ヶ月は居たかのようにドッと疲れた。それは俺だけじゃなく全員がそうだった。
「誰がとは言わないが、殿下の寝所に忍び込もうとした数3回」
2日目の朝にライオット卿が言ってから毎晩、部屋が変わった。
女王との食事以外でも不思議な薬を盛られて体調がおかしくなった毒味役が10人。
変なお香や怪しげなアクセサリーが度々、俺宛に贈られてきた。
直接、命を脅かされたり、脅迫されたりすることは無かったが、外務大臣補佐官にも明らかなハニートラップと俺と同じような不思議な贈り物が届いた為、宰相補佐官の部屋は念のため女性王族の寝所と同じ棟になった。
外交官の自宅にも似たような行為があり、子爵夫人を帰省させて良かったと子爵は溜息混じりに言っていた。
帰る前日に馬車を点検したら、おかしな人形や魔法陣、呪い袋、車輪への細工…「もうこの馬車廃棄したい」と思うような物が沢山出てきて、帰りは外交官が外務省の馬車を出してくれた。
そして帰路の間も「西の砦まで何があるか分からん」と第二王子殿下が南の精鋭達と護衛についてくれていた。その護衛達も王女殿下の能力でスパイがいないか全員点検された。
それから無事に西の砦に着いたが、砦に入る前にライオット卿と第二王子殿下が部下達と砦の全部屋の点検を行うと、やはり俺が泊まりそうな部屋から馬車と同じ怪しげなアイテムが出てきて、砦は素通りする事になった。
聖女の防御壁内に入ったからか、幸いその後の帰国の道中は何もなかったが、皆に帰国後も「誘拐には気を付けろ」と言われていた。そこまでか!?と思うが、この南に滞在している間にあった事を考えれば笑えない。
だから俺は帰国後も部屋に閉じこもっていた。できれば皆に迷惑を掛けたくない。最初は補佐官達と考えたリリベル嬢と少し距離を取る恋愛作戦だったが、むしろ彼女を巻き込まない為に距離を取らざるを得なくなった。
彼女に何かあったら…でも、そんな事言ってられない!
あいつ…とうとう乗り込んで来やがった。俺の事情を兄達は知っていたはずなのに、どうして彼女の登城を許可したのか?
◇◆◇◆
「第三王子殿下から報告は受けたわよ。彼の侍従からもそれが正しいか確認もできているし、あなた方の報告書も確認したわ。それでも両補佐官方は私に何か追加の報告があるのかしら?」
宰相補佐官ガブリエラと外務大臣補佐官エリオットは二人して王太子妃の執務室に面会に来ていた。
帰国後、彼らは各々の所属で報告書を出しており、マレシアナもアイザックからの報告と両報告書をすでに確認済みで、改めて二人に聞き取りをするつもりはなかったのだが、向こうから話があると面会を求められたのだ。
まあどうせリリベル嬢の事で何か動くかなとは思っていたのだが、リリベル嬢はまだ子爵領から戻っていない。つまり彼らは彼女と話し合って来たわけでもない。だから一体何の話なのか?
「ちょっと待って!リリベル嬢に第三王子殿下が縁談を断るつもりである事を言わないって事なの?」
「そうです。彼女にはまだ縁談が続行中であると認識させて頂きたい」
「第三王子殿下も同意なの?」
「そうですね。ですが殿下はご自身への女王の執着が恐ろし過ぎて、周囲に、特にリリベル嬢に影響が及ぶ事を恐れてらっしゃいます。なので完全にあちら側が縁談を諦めたと分からない限り、リリベル嬢との接触を一切、断たれるかと存じます」
「それは…そうかもしれないわね。だけどそれで、リリベル嬢に隠す事のメリットは何なの?」
「これまでの女王の様子を見る限り、女王はかなり粘着質だと思われます。ただ断るだけでは遺恨しか残らない。今後の外交にも懸念が残る。特に南の国は隣国だ」
「補佐官、言いたい事は分かったわ。縁談が続行中だと思わせてリリベル嬢に動いてもらいたいんでしょう?確かに、あの性格ならジッとできない。第三王子殿下の事が好きでなくても、彼に泣きつかれたら助けようと思うでしょうからね」
「仰る通りです」
「だけど逆にあなた方の大事な従姉妹を危険に晒すかもしれないわよ?それに余計に拗れさせる恐れもあるんじゃない?」
「彼女の身の安全の確保は必ず我々で。そしてリリベルは絶対に考え無しには動かない。王太子妃殿下もリリベルを利用したかったんじゃないですか?今、あの子を使うタイミングですよ妃殿下!」




