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ナル兄が今年の王城の納涼祭でデビューする事が決まったそうだ。納涼祭と言ってもほぼ舞踏会だ。夏の舞踏会としては、この王家主催の納涼祭が一番大きなイベントらしい。
ナル兄は今は侯爵の補佐官兼秘書として侯爵家で働いているが、ルト兄が伯爵位を賜ったことで、子爵家はナル兄が継ぐ事になっている。
だから今年のデビューから花嫁候補を探すらしいが、侯爵夫人に
「ベルナルド君のデビューのパートナーにリリベルちゃんのお友達で誰か良い人いないかしら?」と聞かれた。
直ぐに浮かんだのは、ダイアナ様だったが伯爵令嬢だから少し気が咎めるな〜と思った。ジャスミン嬢は同じ子爵同士だが、ちょっと違う気がするんだよね。きっとジャスミン嬢では兄を持て余す気がする。ましてやシャーロットは論外だ。
「う〜ん」とリリベルは少し考えて、
「そう言えば、ナル兄にはお礼をしないといけないんだった」とリリベルはニヤリと笑う。それを見て侯爵夫人は、
「イヤだ〜リリベルちゃんたらイケナイ笑顔!」と同じように、ニヤリと笑う。
そして兄の良き日に、リリベルのクラスの令嬢が投入された。
「お兄様、リリのお友達を作る為に一役買って下さいね」
婚約者がいない事だけを条件に参加自由にしたら、上は侯爵令嬢までいらしてくれた。
ナル兄!人気者じゃないか。
半分は冷やかしかもしれないが、兄も本デビューの前に令嬢に免疫を付けとかないとね。
だが、しかし、さすが腹黒屋敷で働いているだけある。なかなか上手に令嬢達を捌いている。
でも見ている限り、決め手につながる令嬢はいないようだ。まあ仕方ないか。リリベル的にも本命はこれからなのだ。
令嬢方がお帰りになると、ナル兄はドッと疲れた様子でイスに座り込んで「リリ、覚えてろよ」と言っている。
リリベルは、そんな兄の身だしなみをもう一度整えて、
「お兄様、本番はこれからよ!」と伝える。
ちょうどその時「ねえ、他の令嬢はお帰りのようだけど、本当にこの時間で合ってるの?」と仰りながらダイアナ様がご到着された。
ダイアナ様のお姉様は、マリィ姉と一緒に神殿で過ごした元聖女候補だった伯爵令嬢だ。だから最初からリリベルのことを好意的に見てくれて、守ろうともしてくれていたのだ。
まあシャーロットがことごとく邪魔してくれてたけどね。
私はダイアナ様に兄を紹介する。お互いに気が合うといいね。