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顔合わせと説明は1時間程で終わり、この後は親睦会と称してお茶会のような流れになった。
王城のお菓子達は目にも美しくリリベルの気持ちは少し浮上する。そう言えば以前、頂いたクッキーもとても美味しかった。さすが王族の抱える料理人達なのだろう。
リリベルがお菓子を頬張り喜びに顔を綻ばせていると、側近の令息達が話しかけてくる。2人とも侯爵家の令息だ。なるほどシャーロットが邪魔してこないはずだ。と思ってシャーロットを見ると、シャーロットがウインクしてサムズアップしてきた。
言っとくけど“逆ハー”とやらを目指している訳ではないからな。
それに令息達の話はクラスの令息達と違って下心のあるものではなかった。純粋に王城のお菓子の話だった。2人は甘い物が大好きなんだそうだ。うん、そういう話は大歓迎だ。
リリベルが美味しいお菓子とお茶と令息達との会話を楽しんでいると、殿下が温室に案内して下さると仰るので、この後の予定の無い数名で移動した。
珍しいことにシャーロット嬢もリリベルを置いて撤退していった。
明日、雪でも降らないといいが。
温室はザック殿下のお住まいからそう遠くはないそうだ。しばらく歩くと遠目にも見えてくる。
王城の温室は植物園かと思うほど巨大だった。そして木も植るように天井も高い。確かに見応えがある。
特にこの国には自生しない南国の木々…マンゴー!マンゴーだ!ヤシの木に、パパイヤまで。今まで図鑑でしか見たことのない植物でいっぱいだ!
王城の温室を馬鹿にして本当にごめんなさい。ああ爺様にも見せて差し上げたい。そして私はここに住みたい。
皆がハイビスカスやブーゲンビリア等の花々を鑑賞している横で、リリベルは南国の木々達をキラキラとした目で見ていた。
南国コーナーの先には小さく区切られた北国コーナーもあって、そこは冷んやりとしていて寒い所にしか自生しない植物がある。
そこになぜか大量の薔薇の株も所狭しと置いてあって、リリベルが「?」となっていると、温室の管理をする庭師さんが
「王妃様の青薔薇なのです」と教えて下さった。
気付いたザック殿下が、王妃様が隣国から嫁いだ時に一緒に持ってきた薔薇なのだそうで、本来は王妃様のお誕生日月に咲くのだが、こちらの国ではいつも早めに咲いてしまうから蕾をつけたら北国コーナーに移しているのだと説明して下さった。
それは大変だな〜。しかも結構な株の量なのだ。お陰で植木鉢から移せないとも庭師さんが仰っていた。リリベルは、
「薔薇に眠ってもらったらいいじゃないですか」と言うと、
今度は庭師さんが「?」となっていた。ザック殿下が、
「どういうことだ?」と聞いてくる。
リリベルは子爵領で野菜や果物が豊作過ぎる時は、いつも苗や木に眠ってもらって時期を分けて収穫するのだと話した。
領地では爺様と当たり前のようにやっていたことだ。ただし植物達の収穫季節は変えないのが鉄則だ。“春なら春”とその季節中に収穫するのだ。
そこは季節を勘違いさせる温室とは違うのだ。
「リリベル嬢、普通は植物に眠ってもらうというような事はしないのですよ」と生徒会長が仰った。
「そうなのですか!?」驚くのはリリベルの方だ。
「眠らせた後は起こすのか?」とザック殿下が聞いてくる。
「少しの期間なら勝手に目覚めるので特に何もしません。でも1ヶ月先ぐらいになると眠りも深いので目覚めを促すこともあります」と答えると、ザック殿下が思い付いたように、
「タネの芽吹きと一緒か!」と仰る。
うーん、確かに原理は一緒だと思い頷く。
「その眠りの範囲は?一度でどのくらいの広さができるんだ?収穫後の野菜や果物もできるのか?加工した植物は?なあ、まさか枯れた植物を生き返らせたりはしないよな?」
とザック殿下がリリベルの肩を掴んで、激しく揺らしながら矢継ぎ早に質問してくる。
リリベルがザック殿下に揺らされ目を回していると、生徒会長が「ザック殿下、落ち着いて下さい。リリベル嬢が目を回しています」と助けてくれた。




