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楽しみな日はなかなか来ないのに。嫌な日は何でこんなに早く来るのか?
リリベルは今日の登城をどうにかサボれないか必死で考えたが、登城が決まってから侯爵夫人達の買物に連日付き合わされて、何も対策できないまま今日になってしまった。
「制服で行きますから」と言ったのに、ものすごく反対された。何とかドレスは回避しワンピースに留めることができたが、それでも夏らしいビタミンカラーの可愛らしい装いにされてしまった。
「まあリリベルちゃん、もの凄く可愛いわ」夫人達に絶賛される。“可愛い”にする必要性を見出せないのだが。伯父が、
「ちょっとオシャレし過ぎじゃないか?」と言う。
そう!そうなのよ伯父様。
「リリは少しくらい着飾らないと、令嬢の剥げが目立つだろう?」と兄が余計な事を言う。
兄め。今度クラスの令嬢達を投入してやるから覚えてろよ!
時間になり王城に向かう。一体何で側近召集なんてやるんだろう?ただ、リリベルは実は王城は遠巻きに見たことはあっても行ったことはなかった。
ルト兄も、その奥様も「遊びに来てね」とは言ってくれるものの“行ってはいけない”と本能が言っていた。
あれこれ考えているうちに馬車が王城の正門に到着し、門の警備の騎士に召集の手紙を見せる。
馬車は城門を抜けてから王子宮とやらに向かっているそうだ。大きなお城の中で王族のお住まいも別れているというのだから凄いもんだ。もちろんお城の正門から入っても王子のお住まいには歩いていけるそうだが、
「10分は歩きますよ」と正門から、案内の為に同乗してきた殿下の侍従さんが仰る。
馬車で最寄りの入口からだと、直ぐなのだそうだ。
馬車を降りて侍従さんの案内で王子宮の応接室に通される。本当、侍従さんの仰った通り応接室は直ぐだった。
侍従さんがドアをノックし「リリベル嬢のお越しです」と言うと、別の侍従さんが中からドアを開けて下さった。
殿下と生徒会長は、既にお揃いで先にお話をされていたそうだ。リリベルはスカートを摘んで腰を落としてお二人にご挨拶をする。ここは目線を下げる場所だ。
「そうしていると令嬢だな」だが、殿下の第一声が許し難い。
「わーヒロインだ!」シャーロット嬢も呼ばれたんかい!今回の召集目的が“私の忍耐の我慢大会”でないと良いが。
「リリベル嬢、侍女は?一人で来たのかい?」生徒会長が驚いたように言う。
「私の侍従は今、南の隣国に修行の旅に出ておりますので」と言うと、
「リリベル嬢の侍従、見てみたかったな〜」と殿下が。
「身分違いの恋愛もありか…」また訳分からんことをシャーロット嬢が。
「侯爵家で侍女を付けてくれなかったんですか?」と生徒会長がまともな事を言った。
その時、また侍従さんが「リリアン嬢がお越しになりました」と言って、そこから殿下の側近が続々と揃う。
この場には学年が違うのは生徒会長だけだった。
しかし王子殿下の側近って普通、令嬢も入れるものだろうか?と疑問に思っていると、リリアン様が「殿下の婚約者だと特定されないようにする為」と教えて下さった。
つまり私が入ってしまったから、リリアン様もということなのだろう。伯爵家以下ということも大事だったらしい。
今回の召集はクラスの違う側近達の顔合わせと、来年は全員が1組に入れるようにと、側近達の勉強会が組まれるという説明だった。
生徒会に勉強会。リリベルの土いじりの時間が益々取れないではないか!リリベルが無言でムクれていると、殿下が何か察したのか「王城の温室を見せてあげるからさ」と言ってきた。
殿下は多分、勘違いしている。
リリベルが興味があるのは草花ではない。野菜や果実なのだ。できれば王城の菜園の方を見せて欲しいが。
その事実はまだ黙っておくか。