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前世も異世界転移もありません!ただの子爵令嬢です!多分?  作者: 朱井笑美


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閑話

これを読まなくても本編問題ないです。

「婆様、俺、ここで待ってるから」

「ナルも一緒に来ればいいのに」

「俺、礼拝はいいわ」

「ナル、礼拝は女神様を拝むことではないわ。祈って心を安らかにするの。気持ちが穏やかになるわ」


「…婆様、だって女神様ってリリに似てるなんて…なんか、それだけで萎えるわ」

「ナルッ!女神様とリリは別物よ!それに婆様は最近、女神様に愚痴も聞いてもらっているわ。余計に心が晴れやかよ!」

 …一体、何の愚痴?むしろ俺が聞きたいわ。

「ナルっ一緒に祈りましょう。お前の不純な1票でもマリィの力に役立つわ」


 婆様は俺を無理矢理引っ張って礼拝堂に連れて行く。婆様の朝の礼拝に付き添うようになったら毎日これだ。婆様はもの凄い怪力だ。俺は一度だって逆らえたことは無い。


「ナル、祈る事がないなら皆の健康を祈っといて。それだけで良いから。それで皆が1年元気だったら、願いが叶ったって思えるでしょう?」

「ハイハイ」

「私は沢山、女神様にお話しする事があるからね」


「何で毎日、来てるのにそんなに話す事あんの?あぁ愚痴だっけ?」

「お黙り!さあ目を閉じて。呼吸を楽にして瞑想するだけでいいの」

「分かったよ、婆様」おれは溜息混じりに返事をする。


 俺に野生馬は懐かない。

 俺を嘲笑うかのように一定の距離を保ちながら逃げて行く。

 ミカエルには触れさせる馬もいるのに…。


 俺は一向に変わらない状況に苛立つが、もう諦めてもいる。

 父も俺と似たような人間なのにサオリは父には気を許した。

 俺と何が違う?



「ナル、スイカの収穫を手伝ってくれ」

「爺様、俺と父さんは何が違う?」

 俺は爺様が収穫したスイカを荷車に積んでいく。

「ナル?お前は賢いのに気付かないフリをしているな」

「いや本当に分かんないんだよ」


「お前とベルモントでは根底が違うだろ。お前の父がなぜ婆様の礼拝に毎日付き添っていると思う?」

「婆様を崇拝してるからだろ?」

「じゃあ婆様が崇拝しているものを、お前の父が軽んじると思うのか?」

「そんなの見てくれだけだろ!本心はどうだか」


「お前は愚か者だったのか。私はお前を見誤ったのか?賢過ぎて他人の気持ちが分からない人間になってしまったのか?お前の父親は婆様と同じくらい女神様を大事にしている。彼は領主だが領民、領地だけじゃない。個人的にも大事に守りたいものが沢山あるんだ。お前はリリが持って来た絵本をもう一度読むべきだ。理解するんだよベルナルド」


「…爺様、スイカ、残ってるけどいいの?」

「クマ達がスイカを好きだからな。たくさん残さないと雄が全部食べて子熊に残らないだろ?」


「爺様、俺は見たくないんだ。信じたくもない。俺の力だけでどうにもならないものを…」

「お前は若いからな。自分に無限の可能性を持つことは良いことだ。だが実際、一人では出来ないことも多いのだから、さっさと他に力を頼る事も大事だぞ。その方が大きな力も発揮できる。だがそれは身分じゃないぞ」



 ここに来てから夏になった。

 アイオット様の交代で領地に行った伯父から俺に指令が下った。

 別荘のお客人をお前が責任者になってもてなせと。


「皆〜!義弟のナル君よー!」

「わーマリベルの弟君、初公開じゃない?」

「わっ!やっぱりスゴいイケメン」

「初公開じゃないわよ。あなた方の結婚式にも来ていたし、昨年の納涼舞踏会でデビューされてらしたわね」

 俺は覚悟はしてたが、やはり珍獣扱いされている。それでも王太子妃殿下を始め、全員が高貴なご婦人方だ。無礼は絶対許されない。例え兄ちゃん達の奥さんであってもだ。


「私はここでは、伯父に代わり総責任者を務めておりますので何かご不便がありましたら、いつでもお知らせ下さい」

「え〜こんなに若いのに責任者なの?凄いのね」

「優秀なんだわ。だってマリベルの弟よ」

「確かに!リリベルちゃんも賢いもんね」

「あなたの妹さんには第三王子が散々世話になっているわ。あなたは学院には来なかったけど、将来は侯爵家に仕えるの?もったいないわねぇ。そんな小さな器では無さそうだけど?」


「マレシアナ、君の悪いクセだ。優秀そうな人を見ると直ぐに声を掛ける。今回は休暇だよ」

「そうだったわね。子爵令息ごめんなさいね」

「いえ。お疲れでなければ夕飯は庭で、祖父と父がバーベキューをすると言っておりますがいかがですか?先程、二人で子爵領の旬の川魚を釣りに行きました」


「まあバーベキューなんてしたことないわ。皆、どうかしら?」

「ハイキングじゃないのに外で食事をいただくの?スゴい!楽しみ」

「子供達は?危なくない?」

「乳母もいるから大丈夫じゃない?」

「祖母と母もお子様方のお世話の手伝いに伺うそうです」

「まぁ〜悪いわね」

「でも、ぜひバーベキューをやってみたいわ」

「かしこまりました。祖父らに伝えておきます」

 ベルナルドは礼をして下がる。


 使用人やメイドに庭にバーベキューのセッティングと炭の準備を依頼して、調理場には夕飯はバーベキューになった事を伝える。

 それとは別に乳児達の離乳食やミルクの準備などを確認してから子爵邸に戻ると、ちょうど祖父と父が釣りから帰って来た。


「爺様、父さん、釣りの成果はどうだった?」

「ナル、ああ大漁だ。今年も大きくて脂が載って美味しいぞ」

「良かった。皆様がバーベキューを楽しみにしていると仰ってました。初めてのバーベキューだそうですよ」

「まあ貴族のご婦人はあまりバーベキューなんてしないだろうな」


「僕はソーセージとベーコンを保管室から取って来るよ。爺様は疲れたろうから、ナルは爺様を頼む」

「ああ。爺様、お茶を淹れようか?」

「ナル、ありがとう。これはお前に」

「爺様、俺はリリじゃないぞ。でもありがとう」

 爺様がくれたのは木苺だった。少ないのは釣りの道中で、たまたま見付けたんだろう。


「ナル、一つ頼まれてくれないか?」

「何だろう爺様?」

「我が家の厩舎の隅に隠れている子が居るんだ。野菜をあげて来てくれ」

「分かったよ」

 俺は爺様の育てた野菜をカゴに持って厩舎に行くが、中にはうちの馬以外、隠れているような動物はいない。


 厩舎の外か?周囲を見ても何もいない…いや!いる!

 俺が動くと、そいつも動いている。

 厩舎の周りを追いかけっこしているみたいに。

 俺は早足で歩くが、そいつも同じ速度で動いてる。走っても同じだ。急に逆走してみる。

 そいつも逆走している。足音では馬だ!

 だが野生馬はここには近寄らない。


 父が言っていたマスオ?マサオ?マ…何だっけ?

 それにしても賢いヤツだ。きっと北の馬に違いない。

 足音は聞こえるのに、なかなか姿を見れない。

 俺は野菜で呼んでみる。

「お〜い、野菜があるぞ。爺様の美味しい野菜だぞ」

 あ、ちょっと躊躇してるな。一度でも爺様の野菜を食べた事があるなら食べたいだろうな。

 だがやはり姿を見せない。


 時間があればもっと遊んでやりたいが、別荘のバーベキューの準備に行かなきゃならない。それに爺様に頼まれた事はちゃんとやらないとな。

 俺は父と同じ風属性だ。

 風を大きく使って厩舎の屋根に飛び上がる。上からヤツを捕捉するのだ。居た!まさか俺が上から来るとは思ってないだろ?前後の気配にだけ気を配っているようだ。


 面白いヤツだったがチェックメイトだ!

 俺は馬の背に飛び乗ってやった。馬は当然驚いてもの凄く暴れた。

 さすが北のスネイプニルだ!

 体格もサオリと同じでしっかりしている。 

 俺は振り落とされないように、しがみ付きながら声を掛ける。

「なあ野菜を持って来ただけなんだ。食べるだろ?大人しくしてくれたら、すぐに降りるからっ」

 そいつは急に大人しくなった。


 俺は馬から降りて、あっ野菜!

「ごめん、反対側に置いて来たから、そのまま待っててくれよ」

 俺はそう言ってカゴを取りに戻る。

 もしかしたら、また追いかけっこだろうか?今度は上も注意するだろうなと思って戻ると、馬は待っていた。


 捕まったから、もう追いかけっこは終わりなんだろうか?

 俺はカゴの野菜をそいつにあげる。

 馬は美味しそうにニンジンを咀嚼している。

 触っても大丈夫かな?ソッと手で触れようとすると、避けられて頭でカゴを指して「ソレくれ」って言っているようだった。


「分かった。先に野菜な?」

 俺は野菜をまた差し出して、手を伸ばすと今度は触れさせてくれた。

「お前、真っ白じゃないんだな。灰色だ。だから隠れてたのか?」

 馬は知らん顔で野菜をねだる。

「名前何だっけ?何かダサい名前付けられてたよな?でもお前、かなり立派な馬だよ。サオリよりもデカいしな。色だって気にすることないぞ。俺だって…」

 そう俺なんて、いくら外見を褒められても、他に誇れるものは少ない。

 

 それ以来、なぜかそいつは俺に懐いた。

 そいつはさすがスネイプニルだった。

 軽く遠乗りに出たつもりが数時間で山脈の中腹にいた。

 きっと夏場の雪が少ない時期なら軽く1日で山頂に着くだろう。

 成程、北の陛下はこうやって来たのか。


 父が、俺とそいつが毎日つるむのを見て「マスオが全力で走ったら、こうやってしがみ付け」と教えてくれた。

 そして風魔法で空気抵抗を抑える方法も教えてくれた。

 今まで平坦な道を全力で走らなかったから気付かなかった。


「それにしてもお前の名前、マスオなの?本当にダッサイな〜。なあ、これからも俺の相棒でいてくれないか?そしたらカッコいい名前を付けるぞ!」

「ブヒヒンッ」

 多分、同意してくれたんだ。そいつは俺に頭を擦り付けてきたから。

 そうだなぁ。俺は考えながら首を傾げる。


「セノビックだ!お前の名前、セノビックに決めた!」

「おぉ。何か大きくなりそうな名前だな。いいんじゃないか?」

 父さん…まだいたんだ…。




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