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「父上、やはりあのリリベル嬢によって変異された、城であった建物は、魔法や物理攻撃、何をやってもビクともしません」
「何と!真にそうか」
「何て物を創ったんだ、あの令嬢は。やはりアイザックが言った通り聖女なのか」
「あの場に治癒の使い手がいたのは幸いだったとしか言いようがない。お陰で王太子、お前を失わずに済んだ」
「東の国から警告が来ていたのだろう?」
「そうなのですが、少し意味が分からなかったのです。アイザックにとって南の方角が凶と出ているから南でも気を付けろと。結局はアイザックがこの襲撃に巻き込まれるから気を付けろという事だったのでしょうか?」
「確かになリリベル嬢で凶が相殺されるだろうとも言われていたのなら、その可能性は高い」
「それで、あの建物はいかが致しましょうか?取り壊しもできませんし」
「中を整理して、何か災害があった時の備蓄庫と避難所に使うとしよう」
「確かに。あの建物はドラゴンくらいでないと壊せない気がしますね」
「だが美観が問題だな。建築家の意見を聞こう。呼んでおいてくれ」
「はい。そのように」
リリベルとザック殿下ご一行は無事に西の国の王都に戻って来た。
予定より10日以上も遅れてしまったが、何とか夏休み中には帰って来れた。
王都が見えた時は皆でホッとしたものだ。
一旦、王城に到着してから、皆、各々の馬車で帰宅する。
リリベルは皆に軽く別れの挨拶を告げて、ザック殿下にも「では新学期に」と互いに言い合って馬車に乗った。
帰ったら、まず熱いお風呂に浸かりたいなと思って侯爵家に到着すると、久しぶりにアイオット様が出迎えてくれた。
「わあ、アイオット様!お久しぶり。お元気そうで良かったです」
「リリ、お帰り。南の国はどうだったかい?疲れただろ。お風呂用意してあるよ」
さすがアイオット様だ。でも侯爵夫人の姿が無いという事は、まだ絵本事業の方が忙しいのだろう。
伯母も伯父と領地だし、二人が居ないと何だか静かだなとリリベルは思った。
「国王陛下、王太子殿下、ただ今、南の国より帰還致しました」
「第三王子、長旅ご苦労だったな。南での出来事は聞いている。まさかお前が出向いたタイミングでとは思ったが、お前も王女も無事だと聞いて安心した」
「父上、ご心配をお掛けしました。後ほど、母上にも顔を出しに伺います」
「ああ。そうしてやってくれ。王妃も王女とお前まで事件に巻き込まれたと心を痛めておった。詳しい報告は明日で良い」
「かしこまりました。父上、兄上、失礼致します」
アイザックが立ち去ると、父は深い溜息を吐いた。
さすがに南の王族襲撃、暗殺未遂の報には、こちらにも激震が走った。
母は我が子、二人を心配して心労で寝込んでしまった。幸い、死者はおらず二人共、怪我も無く無事であると聞いて安心したものだったが。
だが死者無しの影にはリリベル嬢がいたのだと推測する。
東の国から“南への派遣はタイミング的に凶である”と神が告げたと報せが来たのは、すでにアイザック達が出発した後だった。
至急、呼び戻すべきなのか?と検討がされたが、リリベル嬢がいるのなら凶は相殺されるとも言われた。
その事に賭けてもいいのか?我々は宰相と外務大臣も交えて頭を悩ませたが、東の遣いは「南の王族にも、この件は伝えてある」と言ってきた。
しかも筆頭侯爵家からの返事も「リリベルに任せておけ」だった。
南でも対策をされるなら、とそのまま派遣を続行したが、まさか凶報が王族である自分達への襲撃だとは彼らも思わなかっただろう。
この曖昧な予言はあくまでアイザック視点のものだったのだ。
西の大神殿では何の神託も出なかった。
これまで国の危機に対しては神託が下る事はあったそうだが、今回は我が国の中の出来事ではなかったからか?
いや、リリベル嬢が居るからか?
もしかしたら彼女自身が神託だったのか?!




