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翌日は盆ダンス大会延長どころでは無くなってしまった。
王族襲撃のニュースが一晩で国内中に知れ渡り、南の国内は騒然となった。あんなにお祝いムードで盛り上がっていたのに、国王と王族の暗殺未遂があったのだ。
あの規模の襲撃は、ほぼクーデターと言ってもいいだろう。
リリベル達の帰国も延長になりそうだったが、学院生の皆はリリベルとザック殿下を残して全員帰る事になった。
この状況で彼らの世話も安全も確保できないと判断されたのだ。
他に残るのは大人だけだ。マレシオン様が学院生達は責任を持って連れ帰る事になり、ライオット兄と数名だけを残して、西の騎士団に守られて使節団は慌ただしく朝のうちに帰って行った。
そして、この暗殺未遂を行った犯人達は捕まった。
狙われたのは王太子妃だった。真っ先に火魔法と風魔法が目掛けて飛んで行ったのが王太子妃様だったのだ。
現場の犯人達は黙秘したが、ここで活躍したのは王女殿下だった。彼女の龍憑きの能力は精神干渉だったのだ。
王女殿下の能力で犯人達は主犯を次々と暴露した。
犯人は狂信的な龍神信者達で中には貴族や国の重鎮もいた。
西の国の王女が龍神の末裔である王族に、しかも次期国王の妻になった事が許せなかったのだ。目的は王女の暗殺だったが、途中から王女に誑かされた王家なら一緒に滅んでしまえとヤケクソになったらしい。
その主犯逮捕と犯行理由が明らかになるまで事件から1週間かかった。
その間、リリベルは南の医療関係者と共に王太子殿下の回復に携わり、ザック殿下は王太子妃様のメンタルに寄り添った。
そしてメンタルをヤられたのは王太子妃様だけではなかった。
王女殿下もだった。
王女殿下は犯人の口を割らせる事には尽力できたが、魔法攻撃には何も対応できなかった。その事にショックを受けてらっしゃったのだ。
ララ姉も王城にやって来て、連日、王女殿下の側に居た。
「ララちゃん、ララちゃん私は龍憑きとか言われていても何も出来なかったの」
ずっとご自身の無力さを責めているとララ姉も心を痛めていた。
「リリベルは、ちゃんと食事は食べれているの?休憩は取れている?」
姉はあの日は王城におらず下着のデザインをずっとしていたそうで、子爵様もご子息とちょっとご飯を食べに出店に行くくらいしかしなかったらしいが、逆に王城に来ていたら大変だっただろう。
「ララ姉ちゃん、私は大丈夫。ご飯もちゃんと食べれているよ。もう王太子殿下も回復されたし」
「子爵夫人、ビーバーちゃんも迷惑掛けるね。ああいう時は国王陛下よりも“龍憑き”が優先なんだ。私は王女殿下を絶対に守らないといけない使命があるんだよ」
色々、納得できる。恐らく龍神的存在は王女殿下なのだろう。
それに彼女の能力は、どこまでの精神干渉なのかは分からないが、使い方によっては色々と危ない。
「龍憑きの能力とは、毎回同じなのですか?」
「膨大な水の魔力で水害や日照りを救ったとされる記述もあるよ。だが王女殿下が仰りたいのは、その力の事じゃない。きっと、もっと早く犯人一味の誰かと接触できて、計画が分かっていれば犯行を起こす前に、犯人達の精神を乗っ取れたはずなんだ。」
なんかスゴいやつ?王女殿下の能力って…。
「今までも、そんな事が?」
「無いよ。ある訳ないよ。だが様々な重犯罪の解決に王女殿下は小さい頃から貢献されている。だが今回は犯人側に上手くタイミングを図られた。アイザック殿下が訪問され、警備がそちらに回された。盆ダンスで皆が浮かれていた。王城の天守閣は畳3畳くらいの広さしかないから警備の武士も上には上がっていなかった。そして王太子妃の懐妊でも浮かれ、普段あまり人前に出ない彼女が表に出てきた。全てが犯人側にプラスに作用したんだ」
「私達が来たせいで王族の警護が手薄に?」
「リリベル嬢、君達がここに来た事は直接関係ないから、その事は気にしないでくれ。君達が来なくても、どうせ盆ダンスや王太子妃殿の懐妊発表のタイミングは狙われたはずなんだ。むしろ君のお陰で死者も大きな負傷者もいない。巻き込んだのは我々の方だな」
第二王子殿下もそう仰った。
リリベルが王太子妃様のお見舞いに伺うと、ザック殿下は席を外されてらっしゃった。
「アイザックは帰国の調整をしに出ているの。宰相補佐官や外務大臣補佐官も引き止める事になってしまったからね。私は、もうすっかり元気よ。ジョーも一昨日から身体を動かし始めたし。リリベル嬢、本当にありがとう。あなたがあの場にいてくれて助かったわ」
リリベルがスカートを摘んで礼をすると
「私、強くなるわ。母親になるんですもの。それにジョーが望んでくれて妻になったのよ。だから西の国の出身でも、南で胸を張って生きていくわ。だから、あなたも自分の気持ちに正直に生きて」
リリベルは今までも自分の気持ちに正直に生きてきた。だから最後の自分へのメッセージの意味がよく分からなかったが、王太子妃様のお言葉に感謝の意を示して部屋を出た。




