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王太子妃マレシアナは寝室で弟マレシオンからの学院の報告に目を通していた。そして報告の内容を見て眉間に皺を寄せた。
やっぱり子爵家の面々は普通には過ごせないのか。4番目が学院に来なかっただけでも良かったのかもしれないとマレシアナは溜息を吐く。
しかも早速、第三王子殿下を巻き込むとは。マレシオンも今はいいが、その内、ミイラ取りがミイラにならなければ良いが。
5番目はどうも勝手が分からない。読めない人物なのだ。ララベルの時のように分かり易い恋愛脳だったら良かったのだが、誰かを送り込むにしても人選が分からない。
とそこに夫である王太子殿下が戻って来た。
「マレシオンからの手紙かい?学院の報告だろ。彼は何だって?」と聞いてきた。
「今年、子爵家の5番目が学院に入学しました。早速、同じクラスになった弟君が巻き込まれているようですわよ」
「ふーん、そうか。1組に入らなかったことが仇になったか?ルトも末っ子は彼女が9歳の時に別れたきりだから、よく分からないと言っていたな」と言って夫はベッドで眠る娘の髪をそっと撫でる。
娘は瞳の色は自分だが夫によく似てとても可愛い。やっとヨチヨチと歩き始めたばかりで国王も王妃も自分の母も目に入れても痛くない程可愛がっている。
それをあのララベルの息子が!!と思い出していると、殿下が
「また、人を送り込むわけではないんだろう?ララベル嬢の時みたいに」と聞いてきた。
マレシアナは一瞬、夫のその発言に思うところが無い訳ではなかったが、
「第三王子殿下に害が無ければ」と言うと、
「マレシオンは大丈夫かい?」とまた聞かれる。
「あの子は…」代わりが利きますからとは言えなかった。
殿下は情に熱い人だ。だから自分が非情にならないといけないのだけど。だから…
「マレシオンは分かっておりますわ(自分の替えが利くことを)」と伝える。
マレシアナの実家の公爵家は実力主義だ。
例え長男であっても他に有力な者がいれば、後継の座は奪われる。私の母の場合は王妃の強い後見を得られたから後継になったが、領地の伯父の子供達もそれぞれ優秀だ。
しかし長女は南の隣国に嫁がれた王女殿下の侍女として隣国に付いて行った。あと2人、伯父の子はいる。
1人は騎士になるそうだが、もう1人は来年、学院に入学してくる。
マレシオンの事は王族の教育のせいで、姉としてあまり構ってやれなかったが、自分の弟だし情もあるから頑張って欲しいと思う。 殿下も気に掛けて下さっているから、出来る限りの手助けはしてやりたいな、とマレシアナも娘を見ながら思うのだった。