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学院が夏休みに入っても、南への派遣メンバーは学院が閉まる直前まで勉強会がある。もうだいぶ皆の言語も上達してきた。
あと3日で出発だ。元々、姉君の婚姻で南について勉強していたザック殿下は皆の指導側に回る事も多かったが、ほとんどの役員が学習を終えつつあるので今は時間を持て余している。
それはリリベルも同じで、その様子に気付いた殿下がリリベルに「またダンスの練習をしないか?」と誘ってきた。
「あちらでも踊ることがあるでしょうか?」
「さあ分からないな。でも念の為に」「そうですね」
ザック殿下とリリベルは生徒会室を出て、近くの空き教室に行くことになった。今は夏休みだから、どの教室も空いている。
生徒会室を出る前に、皆に声を掛ける。
「ダンスの練習をしてくるが、参加したい者は一緒に来い」と。
南の学習の気分転換なのか、何人かがついて来る。
「殿下〜あちらでダンスとか踊りますかね?」
リリベルと同じことを聞いている。
「分からないから練習しとこうかと思って」
「確かに。いきなりは心配ですよね」
「僕も最近踊ってない。ダンスの授業なくなったしな〜」
「1学年のダンスもまだ基礎だけですよ」
皆、学院生の間は勉強で忙しく社交界にはあまり出ないのでダンスは久しぶりのようだ。
「今年の納涼舞踏会は参加できないですね〜」
「そうだな。もう南に出発しているな」
殿下の侍従さんが音楽の準備をして下さる。その間に体を動かす準備運動だ。特にリリベルは念入りに柔軟運動しておかないと殿下が何を仕掛けてくるか分からない。
前奏が流れ始めて殿下と礼をしてダンスのホールドを組む。
「殿下、また背が伸びた」目線が間違いなく10センチは違う。
「ああ。リリベル嬢が縮んだんじゃないならな」
「私も伸びてますから!」
「そうだった。横にはこれ以上伸びるなよ。さすがに持ち上げられなくなる」
「持ち上げ要らないので、横への伸びを検討しときます」
「ハハッそうか。それもいい。令息避けが楽になるだろう」
殿下はまだ難しいステップも入れてこない。ただの普通のワルツだ。何か変なの…。
「私もそれなら、また男装に戻ろうかなぁ」
「ええっ?!」ザック殿下がいきなりリードを乱した。
直ぐに立て直したけど、そんなに動揺することかな?
フィリップ様の結婚式後、伯父と伯母はアイオット様と交代する為に侯爵家の領地に戻って行った。
伯父には、ザック殿下からもらった髪留めのお陰で、髪の毛が伸びた事は伝えている。伯父もその事に驚いていたが“王家の秘宝”やら、爺様が持っていた髪留め説などの理由には口裏を合わせてくれるようだった。
伯父は領地に戻る前に「色々、手を回しておいてやったからな」と物騒な事を言って去って行った。手を回すって何を?考えても分からないが、伯父も南で私が何かトラブルを起こすとでも思っているのだろうか?絶対大人しくしとくもんね。
そう南に行く前に、私の侍従のザックさんに連絡を取れないか伯父に聞いたのだが、伯父は「知らない」と言って教えてくれなかった。ザックさんも最初はお手紙をくれていたが、ここ最近は来ていない。宛先が分からないから、こちらからは手紙を送れないし。
彼は元気にしているのだろうか?




