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今日の投稿は恐らく1話のみです。
リリベルのせいで、どんどん優良独身男性が去って行っているのではないか?と、さっきから令嬢方に睨まれている。
でもそんな事どうでもいいと思える程、今は真剣に考えている。
ベルトラント様がリリベルに向けた視線は姉に対するものだ。リリベルが許可して、リリベルを通して「今、踊っているのがマリベルだったなら」とラント様が思ったからだ。
それも今となっては、ただラント様の気持ちをリリベルが傲慢に振り回しただけなのかもしれない。
何て酷い女なんだ私って。無神経だったかも。
「ちょっと、あなた子爵令嬢ね?」
リリベルに声を掛けてくる令嬢がいた。
「どうして、あなたと踊った後、彼らは帰ってしまうのかしら?あなたが何かしているの?」
そうじゃないけど、そうかもしれない。リリベルは頭を下げる。
「申し訳ありません。理由は分かりませんが、私が彼らを不愉快にしているのかもしれません」
「それはどういう事かしら?何を言って怒らせているの?」
「それは…私が未熟者だから」「未熟者?何が?」
「いえ。不愉快にさせて申し訳ありません。私も帰りますから!もうご迷惑はお掛けしません」
リリベルはそう言って会場を出る。
勝手に侯爵家の馬車を使って先に帰っても良いだろうか?と考えていると、数人の令息がリリベルの方に来る。
宰相府の人達だろうか?
「君、大丈夫かい?さっき令嬢達にいじめられたんじゃないのか?」
と言いながら近寄って来た。
「ご心配ありがとうございます。彼女達も私を心配してくれただけです。いじめられた訳ではありません」
「本当かなぁ?でもそんなこと言えないよね。もう帰るなら送ってあげるよ」
リリベルは退路を断たれるように彼らに囲まれる。
こいつら送りオオカミか?!もしくは、どこかに連れ込もうと?!
ちょうど良かった。鬱憤を君達で晴らしても良いだろうか?リリベルの目が据わったその時、
「彼女に手を出したら筆頭侯爵家を始め、ほとんどの高位貴族が敵に回るがいいのか?」と声がした。
声の方を見るとザック殿下だった。
「もちろん王家も敵に回るよ?」
「第三王子殿下!我々は彼女が心配で」
「そうだ他の令嬢にいじめられて会場を出て来たから心配で」
「そうですよ。ザック殿下、彼らは私のストレス発散に付き合おうとしてくれた親切な人達ですよ。ねぇ?」
「そうだ!そうです」彼らは口々にそう言う。
「殿下、言質を頂いたので良いですか?」
「駄目だ。フィリップと君の従姉妹の良い日を台無しにするのか?」
「大丈夫です。ちょっと遊ぶだけです。オラァッ!」
リリベルの渾身のグーパンが令息の腹に入る。スレンダーな彼は一瞬で伸びた。
「わぁっ!!」令息達から驚きの声が上がる。
「ほらっもっと遊びましょう?」
リリベルがまた拳を握って二人目の腹にぶち込むと、また一人、華奢な令息が倒れた。
ザック殿下が「あーあ」と額に手を当てる。
残りの令息達は慌てて逃げて行った。
「あれ?もうお終い?」
「リリ大丈夫だよ。僕と兄が伸びてる令息は片付けておくよ。逃げた奴らもまとめてね」
「エリオット様?ライ兄!奥様達は?」
「二人で仲良く喋っていたから大丈夫だ」
「お前、夜道を一人で歩くなって言ってるのに!」
「ごめんなさい。でもスッキリした」
「そうか良かったよ。殿下、リリベルをお願いできますか?」
「分かった。送って行く。行くぞリリベル嬢」殿下が手を出す。
「殿下!フィリップ様は?」
「まだ会えるし、南にも来るだろ?だから大丈夫だ」
リリベルは殿下の馬車で侯爵家まで送ってもらう。
「ダンス…」「へっ?」
「一緒に踊れなかったな。せっかくアクロバティックなのを踊って、フィリップ達を祝ってやろうと思ったのに」
「ああ。でも最近、殿下とは踊れてないので、そういうの踊れる自信がないです」
「それもそうか」
アイザックは「あの二人とは踊ったクセに」と思ったが、リリベルの頭上でエメラルドグリーンに輝く髪留めに気付いて溜飲を下げる。
「何か令嬢の時の方がトラブル多いな」
リリベルもそんな気がしている。
「だけど、もう髪は切るなよ。女神様にもらったんだから」
「うん」確かに切ったら罰当たりだ。
リリベルは令嬢に戻った矢先のトラブルに、つい「頭痛がするわ」と言うと
「俺の方が、もっと肝を冷やしたぞ!」と言われた。
仰る通りです。
でも「これからはザック殿下が令息を追い払って下さいね」と言うと、ザック殿下が遠い目をした。