192
フィリップ様とガブリエラ様の結婚式は夏の日差しの眩しい晴天の中、大神殿の大聖堂で厳かに行われた。
リリベルは侯爵家の親族席の末端で式に参加している。やはり式にはマリィ姉ちゃんが立ち合いをしていた。従姉妹だし公爵家だものね。
私の時も姉ちゃんがしてくれるかなぁ。
あ、でも姉ちゃんの任期中に結婚出来ないかも。うん多分。
そもそも結婚すらできるのか?
最前列にミカエル様がご列席されている。弟だから当然か。という事は子爵領は今はベルトラント様?いや彼もフィリップ様の親族席にご列席中だ。では他の聖騎士様がいらっしゃるんだな。アルテミス様かトルテ様、ミルフィーユ様か。
サオリは北に帰ったのかな?子爵領なら他の馬達と森の中にいるのだろうか?
リリベルが色々、トリップしている内に式は終わっていた。座って参加しているだけで良かったので助かった。
この後は公爵家でお披露目パーティがあるそうだ。
パーティは面倒だが新郎新婦、二人とも知り合いだし参加せねばならないだろう。ドレスなんて王城の納涼祭以来じゃないか?!先日、夫人達と嫌々だったが買い物に行っといて良かったと溜息を吐いた。
オーダーのドレスなんて要らないと言ったのに間に合ってるし。しかし、ちゃんと自分で見ないと、また二人に良からぬ色でカスタマイズされる。赤も紫も青もシルバーも断固NOだ。
ライオット兄とエリオット様にもご挨拶をする。
彼らもリリベルの令嬢に戻った姿を見て驚いていたが、ライオット兄は安心していた。
式が終わって一旦、侯爵家に戻る時、声を掛けられた。
「リリベル嬢」ザック殿下だ。
「殿下?こんにちは。どうされました?」
「あ、いや君もこの後の公爵家でのパーティに参加するのか?」
「はい。お二人とも知り合いですし」
「そうか、そうだよな。君のドレス姿、久しぶりだな。ではまた後で」
何しに来たんだ殿下?リリベルは馬車に乗り込んで、伯父達と帰宅する。
「ねえ、あなた、あれは役割じゃないわよね?」
と伯母が伯父に呼び掛ける。
「ああ。そうだな。多分そうだ」
何の話だ?勘の良いリリベルにもさっぱり分からない。二人とも目が合っても教えてくれないし。何なんだ!?
「ミカエル、お前、出遅れたな。公爵家のパーティのパートナーを申し込むつもりだったんだろ?」
「アレって妨害ですか?それとも牽制されたんでしょうか?父上」
「さあな。ただ殿下はリリベル嬢の令息避けでもあるらしいがな。それにパートナーを申し込んではいなかった。まあ申し込んだら恋愛関係にあると見なされる年齢になってきたから慎重だろう。しかし先日まで少年だったのに、またすっかり令嬢に戻ってたな」
「父上?少年って?」
「ああ、お前、見てないんだな。ならまあいいか」
「まあ!リリベルちゃん可愛いわね。どうしましょ、あなた!リリベルちゃんにダンスの申し込みが殺到しちゃう」
すでにそれは男装時に経験済みだが。
「伯母様それは、ちょっと言い過ぎじゃない?」
リリベルは鮮やかなグリーンの生地に黄色やオレンジの小花の刺繍が散ったドレスに身を包んでいる。ウエストを黄色のオーガンジーのリボンで結びアクセントにしている。
「ああ確かにリリベルはパーティ会場で人気者になるだろうな。困るなら殿下の側にいると良い。お互いに令嬢令息避けなんだろう?」
確かにそうだ。だがそれで良いのか?逆に殿下と噂にならないか?まあ今更か。
伯父達と公爵家に到着すると、ホストである恐らく公爵家の現当主と思われる方々に迎えられる。
軽く挨拶をして会場内に入ると、奥にフィリップ様、ガブリエラ様と宰相閣下が、招いたゲストと談笑されていた。私も伯父達とそちらに向かい新婚のお二人にご挨拶すると、二人に驚かれた。
「リリベル嬢?!いつの間に令嬢に?」
「まあ色々ありまして…でもお二人の結婚、本当に嬉しく思います。おめでとうございます」
「ありがとうリリベル嬢。あなたには随分、背中を押してもらったな」
「本当ね。ありがとう感謝しているわ。南でも宜しくね」
「はい楽しみにしています」
「今日は君に主役を奪われそうだな。周りを見てごらん、皆、男性は君に注目している」
「本当だわ。頑張ってリリベル嬢!」
「あのっザック殿下はまだですか?」
「そう言えばまだご挨拶してないわね」
「そうか殿下は君の令息避けだもんな。早く来てもらわないとな」
とフィリップ様が笑う。笑っている場合じゃない!!
「リリベル嬢、裏から回って」
とガブリエラ様がリリベルを隠して裏に回してくれた。さすがガブリエラ様だ。助かった。
リリベルは使用人用の裏通路から会場の端っこに出ようと進む。
せめてザック殿下が来るまで、どこかで隠れていたい。会場は賑わってきた。ゲストが出揃ったのだろう。出迎えのホストも中に戻り二人の紹介がされて乾杯が始まる。
会場内の主役達の他に、人の大きな塊がある。多分、あそこに殿下がいそうだが近付くのが怖い。男装中は全く平気だったのにな。
リリベルは会場の端の方で人混みに紛れ中だが、急に腕を掴まれてビックリする。
「わぁ!誰?」
「あっ申し訳ない。リリベル嬢だったか」
腕を掴んだのはベルトラント様だった。




