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次の日の学院は大騒ぎだった。
「誰だあれは?」「あんな人いたか?」
「転入生か?」「2学年1組だ!」
「生徒会長か!そう言えば令嬢だった」
この流れは3度目だ。入学式、男装時、そして今回だ。
毎回、混乱させて本当に申し訳ない。
しかも今は生徒の代表である生徒会長になっているので余計にそう思う。次からは慣れてね。いやっもうないはずだ!
「リリベル嬢、おはよう。おぉ、ちゃんと令嬢だな」
とザック殿下がおかしそうに笑う。朝から楽しそうで良かったよ。
ちゃんと侯爵家の侍女に髪も整えてもらったし、以前はしていなかった学生用のメイクも教わった。そして伯母に朝食時からマナーも見てもらって完璧にしてきたからね。
教室でもどよめきが。だが生徒会の役員達が普通に挨拶しているので“何でだ?”という顔は隠せていないが黙認してくれている。
本当、気を遣わせて済まないね。
「王家の秘宝で本来の姿に戻らせて頂きました。驚かせて申し訳ありません」と皆に聞こえるように言っておくと「そうなんだ〜」と納得してくれている感じだ。
うん王家パワーはやはり凄い。
「王家の秘宝って?」ザック殿下がこっそりリリベルに聞いてくる。
「それが理由として一番手っ取り早くって。伯母達も直ぐに納得してくれましたし。それにこの髪留めの事、生徒会の役員達も王家の秘宝だと思っていたでしょ?」
「そうだったかも…」
「それに私以外で殿下が東で髪留めを買われたのを知っているのは、フィリップ様ぐらいですから」
「そうだな。そういう事でもいいけど、兄上達には通用しないぞ」
「それはザック殿下が説明しといて下さいよ」
「筆頭侯爵家の秘宝っていうのはどうだ?」
「それ直ぐにバレる嘘じゃない?」「聖女殿の秘技とか!」
「噂になって姉ちゃんに頼みにくる人がいたらヤバいじゃないですか」
「じゃあちゃんと説明するかぁ。でも本当にそれでもいいのか?」
確かにもう神様がらみは暫く勘弁だ。ザック殿下もそう思っているのだろう。
「北の国王陛下にもらった事にするのは?」
「母上が何て思うかな〜」
「もうっ!子爵家にあった事にします。多分、爺様あたりにもらった事にすればいいか」
「ああ多分それがいい。君の祖父殿も何か変わった雰囲気をお持ちだった」
「ただの年中タンクトップのおかしな爺さんですが」
「ああ、そのギャップが不思議感を増しているんだろうな」
アイザックは髪留めを自分があげた事にならないのが、少し残念な気がしたが、また南で何か探せばいいかと思った。って俺、何でそんな事思ってんだ?これは深く考えたら駄目なやつだな。と気を紛らわせるつもりで話し続ける。
「なあリリベル嬢、そういえばフィリップだが、彼は異動希望を出してきたんだ」
「えっ?もしかしてガブリエラ様のところですか?」
「ああ。そうだ」「わー後で詳しく教えて下さい!」
「じゃあ昼に」「はい、では後ほど〜」
教室での短いホームルームの後、リリベル嬢は選択授業の教室に移動していった。俺も側近達と移動を開始した。
昼食時、ザック殿下のサロンでリリアン様がお茶を淹れて下さる。あれからマリアンヌ嬢は昼食はお友達と食堂やカフェなどで食べているらしく、ザック殿下のサロンには来なくなった。
放課後の生徒会室では会えるけど、やはりまだ少し元気がない気がする。
生徒会の1学年も4人になってしまったので、またもう一人増やしてもいいのではないかと思った。それとなく人選をアイオーン様にお願いしておいた。殿下もそれでいいって仰っていたし、どうせリリベルには貴族の事は分からない。
「ではフィリップ様は南の隣国への派遣を最後に、宰相府に異動されるんですか?」
「そうだ。でもその前に結婚式を挙げるそうで、急だが今月の終わりの予定だと言っていたな。もし予定が無かったら参加してやってくれ。あと派遣旅行に補佐官殿も一緒して下さる。彼女はあちらに、かなり顔が効くし慣れているから」
「わぁ。新婚旅行みたいですね」
「君が何も問題を起こさなければな」
「‥‥どういう事ですか?」
「自覚あるだろ」
むー。あるけど納得いかない…。




