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「何ですか!?これ、魔法アイテムですか?」
「外すと髪が戻るとか?」「会長!髪留め外してみて下さい」
皆、リリベルよりも大興奮だ。それに髪留めを外してみても髪は長いままだった。
「凄い!髪を伸ばす魔法なんて!」
「外見を変える事ができる魔法なんて無いはずなのに」
「王家の秘宝ですか?」皆の興味が尽きない。
見かねたマレシオン様が「とりあえずリリベル嬢の髪問題は解決という事で。だが髪が長いだけでは令嬢ではありません。振る舞いや所作も令嬢に戻れるようにしといて下さい。それはシャーロット嬢やリリアン嬢にも指導をお願いします」と仰ると「お受けいたしますわ」とシャーロットは嬉しそうにしている。
嫌な予感しかしないので、ちゃんと予防しとこう。
そして派遣の日までに南の隣国の言葉と文化、1学年は箸の使い方の学習が入る事になった。昨年からそんなのばかりだな。
しかし、この髪留めは一体?
もしかしたら殿下が東の国の雑貨屋で見ていた物では?小さな宝石を花のように寄せていて細工技術が素晴らしい。これは東の雑貨屋で見たのと似ている。小さな石でも美しく見せるデザインと技術にとても優れていたのだ。
帰りの馬車乗り場に行きながら殿下に尋ねる。
「この髪留めは東の?」
「そうだ。やはり気付いたか。細工が美しいだろ?だから、つい手に取ってしまったんだ。だが最初は濃い緑色の石だったんだ」
「どういう事ですか?」
「君が困っていたら、その髪留めをあげて欲しいと女神様に言われたんだ。その後、宝石が君の瞳の色に変わってたんだ。驚くだろ?」
驚くなんてものじゃない!リリベルは唖然とする。
女神様はこの事を見越してらっしゃったのだろうか?
「ザック殿下は女神様にお会いになったんですか?」
「ああ。夢の中に出てらっしゃった。女神様だとは直ぐに分かったよ。だけど…顔は覚えていないんだ。覚えているのは“女神様にお会いした”その事と、伝えられた内容だけだ」
「そうなんですね。女神様にお礼を言わないとですね」
「ああ。ちゃんとお礼を言っておいてくれ」
「でも申し訳ないです。殿下がどなたかに買ったお土産だったのでしょう?それを私の物にしちゃったのでは?」
「違うよ。ただ綺麗な細工だったから買っただけだったんだ。だから女神様に利用されたのかもな」
「利用されたなんて!」
「光栄だよ。そうだろ?どうせ誰にも渡す予定のない物だったんだ。だから君の役に立って良かったよ。いつも助けてもらっているし」
「それは私だって」
「じゃあお互い様だ」と言って殿下は馬車に乗って帰って行かれた。
殿下を“お互い様扱い”してはいけないはずだ。殿下はこの国の王族なのだ。彼から返して貰うものも、与えて貰うものも毎回、大き過ぎる気がする。
私からの見返りなんて大した事はないはずなのに。
リリベルは帰りの馬車の中でとりあえず、驚くはずの侯爵夫人達に何て説明するか頭を悩ませた。
夕飯の席で
「リッリリベルちゃん!ギャー!!」
「何で?何でなの?何があったの?」やっぱりそうなるよね。
とりあえず面倒なので、南の隣国への派遣メンバー入りの為に、ザック殿下から“王家の秘宝”をお借りして髪を戻した事にした。
本当の事は恐ろしくて言えない。
「そうなのね。スゴい秘宝なのね!」
「でもリリベルちゃん。女の子のお洋服を、また揃えないとね」
「そうだわ。体型が変わってる!女の子のお洋服はお下がりがないからお買い物に行きましょう!」
「そうしましょう。また可愛いお洋服が買えるわね。」
次の休みは有無を言わさずお買い物に行く事が決まった。
そんなに夫人達から見ても体型が変わったのだろうか?恐る恐る聞いてみると、
「何を言ってるの?成長期でしょ。身長も伸びてるわ。それに女の子らしい身体つきになったわよ」
「そうよ。確かにララちゃんは細かったけどお胸は無かったわ」
「そうそうアレはえぐれ胸の盆地胸ね!」
出るどころか、えぐれてたの?!
リリベルが驚いていると
「マリベルちゃんも最初はヤバかったわね。まな板に豆だったわ」
「今ではやっと見れるわねぇ。お菓子を、た〜んと送っておいて良かったわ」
「本当よ」「リリベルちゃんはお母様に体型が似たんだわ。クララベルちゃんは細いクセに良い物を持っていたわ!」
「まあ!だからベル君は骨抜きなのねっ!」
伯母たちの話はまだ終わりそうにない。
とりあえずリリベルの体型は母に似たという事で感謝しとく事にした。




