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「リリベル嬢、私は何も君が憎くて令嬢に戻れと言っている訳ではありません。君は学院内でも東の旅でも、これまで令息姿で困った事はなかったかもしれませんが、今回の南の旅では違います」
それはザック殿下を始めとする国の代表団だからだろうか?それとも南では男装の女性は無礼にあたるとか?
「リリベル嬢、あなたが男装していると少年にしか見えません。この学院の者は、あなたが女性だと知っていますが、それ以外の者は知りません。私はあなたに対して特別扱いはしないつもりです。つまり南への道中の団体行動の中で男性扱いをする事はもちろん、あなたは男性専用の馬車や、宿泊施設の部屋、浴場やトイレなどを使う覚悟はあるか?という事です」
それはリリベルも想定していなかった事かもしれない、ちょっと想像してみるが水場はダメかもな。
「リリベル嬢、もしあなたに覚悟があったとしても、他のメンバーはどうでしょう?女性のあなたが隣のベッドにいたり、浴室で出会うわけです。健全では無いでしょう?」
生徒会の令息達が驚愕している。
彼らも想像してみたのだろう。想像の中とはいえ驚かせてごめんなさい。
「それにこの国では大丈夫でも、あちらの国に入ったらあなた自身が自分の身を危険に晒す事になります。どこの国でも男女問わず美しい人は狙われやすい。令嬢の中にいた方が守られやすいし警戒しやすい。あちらも女性には警護を多めに付けてくれます」
マレシオン様の説明はどれも納得のいくものだ。ならどうしたって令嬢に戻る事が先決だろう。
「リリベル嬢、大丈夫だよ。令嬢の制服を着ればきっと女性に見えるよ!」
「そうよカツラを用意するわ。それにお化粧だって」
皆で私を励ましてくれる。
「とりあえず!前に着ていた令嬢の制服を持って来ました。隣の資料室で着替えてきますので、ご意見を下さい」
「分かったわ」皆が頷く。
あ、制服がなんだかキツイかも!太った?特にウエスト部分は最近締め付けていなかったから。自由し放題だ…。腕も何だか筋肉付いたかも…ダンスのせいか?お胸も少し成長したか?背も伸びたし、女性に戻る云々というより、制服を一新するか補正しないといけないかも…。
冬からほんの4か月あまりで、そんなに体型が変わったのだろうか!?
その時、資料室の扉の側でザック殿下が呼び掛けてきた。
「なあリリベル嬢、姉上の最高学年の時の制服を持って来ているんだ。多分、今のリリベル嬢と同じくらいの背丈だったはずなんだ。君、その…少し全体的に成長しただろ?」
言葉を濁していても“全体的に”は余計だ!
でも、さすがいつも一緒にいる殿下だ。伊達に殿下の昨年辺りの衣装をお借りしている訳ではなかったか。しっかり体型まで把握されていたとは…最早どっちが側近なんだか…。
お借りした制服は、なんとピッタリだった。恐ろしい。
だが制服は着れてもビジュアルは令嬢でいけるのか?恐る恐る資料室から出てみる。
「皆様、いかがでしょうか?」生徒会室がシーンとなる。
何かリアクションを頼む!
「やっぱり女装だ」シャーロット!女性にそれは…だが正直な意見をありがとう。
「この髪型で令息用の制服姿を見過ぎているから、先入観がスゴいんだよ」
「確かにな。特に1学年は会長の令嬢姿を見てないだろ?」
彼らは発言できず黙っている。という事は令嬢用の制服に違和感があるのか?
「とりあえずカツラと化粧は決定ね」
「公爵家にも姉上のところにもメイクの上手い侍女がいるのでお願いしてみましょう」
「そうですよ。それに出発まであと1か月ありますから髪も1センチは伸びますよ」
皆様の温かいお言葉にリリベルが感動していると
「なあ!リリベル嬢、今、困っているよな?」
空気を読まないザック殿下の発言に「何言ってんですか?」と視線で答える。すると侍従さんが殿下に何かを渡されていて、それを殿下が私に渡してきた。
「何ですか?これ」と手の平サイズの箱を開けると、中からエメラルドグリーンに輝く可愛い髪留めが出てきた。
「わあ綺麗!」皆も髪留めを見てそう言うが、今の私には嫌味ではないか?
「リリベル嬢、これ着けてみてもいいか?」
私を笑い者にしたいのか?
答える前に、殿下が私の手の髪留めを取って後頭部にパチンと止めた。このヤロー、後で覚えてろ!と思った瞬間!
「わーリリベル嬢、髪が!」「髪が伸びてる!」
「へっ?」私は自分の耳辺りから髪の毛を触ると、最近の首元にはない物が…手に取ると自分の髪が目の前で見れている。
この感触随分久しぶりだ。
リリベルの髪が以前と同じ、腰辺りまで伸びていた。




