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リリベルとシャーロット嬢が午後の授業を終えて生徒会室に到着すると、生徒会室では騒ぎが起こっていた。
「私が!私が勝手にした事なんです。マリアンヌ様はご存知ありませんでした!」
1学年の生徒会役員の伯爵令嬢が必死にマレシオン様とザック殿下に取り縋っているところだった。
マリアンヌ嬢は顔を蒼白にして呆然と立っていた。
リリベルに気付いた侯爵令息が説明してくれる。
「リリベル嬢、我々の中で髪が伸びない者と、そうでない者とのやり取りの中で、昼食時に殿下のサロンに来ていない者には、全く影響が出ていない事が判りました。そして主に影響があったのが、昼食時にあなたと殿下を中心としたテーブルだったんです」
「ザック殿下のテーブルでは毎回、マリアンヌ嬢がお茶を淹れて下さっておりました。だからマリアンヌ嬢にちょうど伺っていたところで、伯爵令嬢が白状したんです」
「お茶に騎士団が利用している“人毛の成長抑制剤”を約2か月ほど混入させていたそうです。それは昼食時だけではなく、生徒会の午後の仕事や会議の時にも会長を中心として出されていました」
リリベルは伯爵令嬢を問い詰めようとするマレシオン様を止めて、怯える令嬢に静かに尋ねる。
「標的は私ですか?私だけの為に、他の方にも薬を混ぜたお茶を飲ませたのですか?」
「人体には影響の無い物です。それに体毛の伸びが通常よりも遅くなるだけの薬ですから」
「だから気付かれないと?私の髪が伸びなければ令嬢に戻らない。そうあなたは考えたという事で間違いないですか?」
「そうです」
ここからが本題だ。
「そうすれば、私が南の隣国への派遣に参加できないと思いましたか?」
「はい」「それはマリアンヌ嬢の為になる事ですか?」
「‥‥‥」「お答え下さい」
「リッリリベル嬢!私がアイザック殿下と、もっと接点を持ちたかったと思っていたことは間違いありません。だから、だから彼女が、あなたが居なければ、もっと私が殿下と接点を持てるのではとやった事なのです!私も一緒に責任を取ります!生徒会を辞めても構いません。どうかどうかお許し下さい」
「マリアンヌ様!!」
二人で必死に頭を下げる。
「生徒会長としてお伝えします。あなたが生徒会役員の立場を利用して、利己的に第三王子殿下とその側近の高位貴族達に薬を盛った事実を学院長に報告します」
「!」「標的が私だった事と、人体に影響が無い薬だったという事は関係ありません。私以外の役員や殿下も飲んで影響が出ているのですから。あなたはその事実を重く受け止め、これから学院長がなさる判断に従って下さい。そしてご実家にも報告なさって下さい」
伯爵令嬢は驚きの顔から一転し項垂れる。自分のやった事の重さに気付いたのだろう。
「そして、マリアンヌ嬢は知らなかったとはいえ、自分がお茶を皆に飲ませた上、あなたの側近がやった事に胸を痛めているのでしょう?だから、あなたの事はあなたの家に委ねます。マレシオン様にお任せします。よろしいでしょうか?」
「リリベル嬢、いや生徒会長、分かりました。責任を持って公爵家で対処します」
「ありがとうございます。ですが一つ、生徒会の役員が二人も、しかも公爵令嬢が抜けるのは外聞が良くはありません。ですのでマリアンヌ嬢が生徒会を抜けるのは良しとしません。彼女は今のところ1学年の主席扱いですから」
マリアンヌ嬢が驚愕した顔を見せる。
「その件も承知しました」
「ザック殿下も、それで構いませんか?」
「私は構わない。だが…ああ済まない別件だ。また後で話そう」
それから伯爵令嬢は学院長から謹慎と3ヶ月間の停学を言い渡されたが、ご本人は自主退学された。
マレシオン様の説明によると、本人は深く反省しており自分から退学を希望したのだそうだ。そしてマリアンヌ嬢は南への派遣メンバーをご辞退されるとの事だった。
それで事態は解決したように思われたが、全く解決していなかった。そうリリベルが令嬢に戻れない問題だった。
どうして令嬢にこだわるのー?!




