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4番目の伯父も東に帰る日になり、リリベルは早朝、学院に行く前に伯父の見送りに出た。
1番目の伯父は国境まで送って行くそうだ。
リリベルは4番目の伯父に、東の神様に渡して欲しいと青薔薇の鉢を渡した。青薔薇はもう咲く時期に来ていたが、神様がきっと薔薇を起こしてくれるだろうと、少し深い眠りについてもらっている。
そしてマティアス氏が描いた絵本も一緒に渡してもらえるようにお願いした。
「リリベルちゃん、夏休みに入ったら、また東の隣国に遊びに来てくれないか?きっと神様も殿下方もお喜びになるだろう」
「伯父様、お誘いありがとうございます。ですが夏休みは、ずっと前からザック殿下のお供で南の隣国への親善旅行が決まっているんです」
「そうか。君は第三王子殿下の側近でもあったな。でも暇があったらいつでも遊びに来てくれ。今回、兄弟5人で会えるなんて思ってもみなかったよ。神の司書として西に来たが、本当に有意義で楽しい里帰りだった。ではまた元気でな」
「伯父様も」リリベルは伯父達の馬車が見えなくなるまで見送って自分も学院に行く馬車に乗った。
侯爵夫人が版権を手に入れた絵本は約3か月後、秋を迎える前には販売ができるそうだ。お知らせだけでもできれば、もっと購入を希望していた方も喜んで下さるかもしれないな。
あと半月で夏休みに入る。今度は南への派遣の為の準備に忙しくなるだろう。だが、リリベルはふと考える。何か大切な事を忘れているような気がするが…何だったっけ?
◇◆◇◆
「兄さん、リリベルちゃんは北の隣国にもお誘いを受けたんだろう?今度、南に行ったら、また…」
「お前の言いたい事は分かるぞ。だがリリは南の隣国に行く事を一番楽しみにしていたんだ。だから止める事はできないな。一応、あちらの王族には未婚で適齢期の王族男性はいない。まあ王族だけとは限らんのだが」
「さすが兄さんだ。ちゃんと調べているんだな。確かドラゴン崇拝だから一夫一妻だよな?」
「そうだな。ドラゴンの番同士の愛情は深かったとされるからな。王族も国民もその意識は強いようだ」
「そうか。南の隣国ではさすがに女神様に似ている事は影響なさそうだよな」
「だといいが。だが、あの子の人を惹きつける魅力はそんな事ではないだろう?」
「大丈夫じゃないか?少年の姿で行くんだろう?だったら同年齢の異性はむしろ恋愛対象とはしないのでは?」
「‥‥ちょっと待て!確か南への派遣は令嬢に戻る事が条件だとリリベルが言っていたぞ」
「はい?リリベルちゃん、春に東に来た時からそんなに外見変わってない気がするけど。髪もあまり伸びてないよな?」
「確かにな。本当ならもう少し髪が伸びていそうだが…」
「そうだよ。だって私だって春から一度散髪している」
「私もだ…」
「ハハハ。もし南への親善メンバーに漏れたら、東においでって言っといてよ。少年姿でもこっちは大歓迎だ」
「そうだろうけど、リリが落ち込むな」
「じゃあ兄さんが別で連れ行ってってやればいい。どうせルートもコネも持っているんだろう?」
「まあ、そりゃ。南にはあの子の姉のララベルもいるしな」
「じゃあ問題ないよ」
「そうか?そんな簡単な事じゃない気がするがなぁ」
お昼時、ザック殿下のサロンで昼食をいただくのが、もう当たり前になってしまった。
「会長、お茶をどうぞ」
「ありがとうございます。マリアンヌ嬢」
公爵令嬢に淹れていただくお茶も普通になってしまった。
その時「皆、ここに揃っているのかい?」ノックの音がしてザック殿下の侍従さんが扉を開けるとマレシオン様が入っていらした。
「やあマレシオン。そう言えばそろそろ南への派遣に向けた準備の時期だな」
「ええ殿下。メンバーには、これから派遣までの間、語学や文化などの座学を受けて頂きます」
「私も忘れている事も多いだろうから、また勉強し直さないとな」
「では明日の放課後から…ってリリベル嬢!髪があまり伸びていませんね?もしかして一度切られました?」
「いえ!そんな…また伸ばしていたはずですが…」
ヤバいでーす!忘れていたのはコレでした!




