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「リリベルよ、父より先に馬か?」
「いやどっちも驚いたわ。明日、槍が降ったらお父様のせいだから」
「は〜この馬がスネイプニルか?」
「伯父様、危ないよ!あまり近付かないで!」
案の定、サオリは4番目の伯父に警戒して暴れる。
「はい!ドウドウ落ち着けサオリ。ったく久しぶりに会った兄まで馬が先か」
「ベル、悪いがサオリを厩舎に入れて来てくれ。その馬を扱える者が侯爵家にはいないからな」
「ああ、そうだな。連れて行くよ」
「伯父様、お父様、私がサオリを連れて行くから。お父様は疲れてるでしょ?」
「ああ、リリ悪いな」
「伯父様、誰かに野菜か果物を届けるように頼んでくれる?」
「お嬢様、私が参りましょう」
「執事さん、お願いします。サオリ行こう」
リリベルはサオリの手綱を引いて厩舎に向かう。侯爵家の厩舎の一角をサオリ用に広く空けてくれたようだ。さすが侯爵家の使用人だ。仕事が的確で早い。
リリベルはサオリを撫でながら回復魔法をかける。サオリは回復させた方が大人しい。
そして執事が持ってきた野菜をあげながら、厩番にサオリの厩舎の扉は開けておくこと、餌の飼葉を扉の外に用意しておくこと、サオリが厩舎から出ている時は半径10mは近付かないようにすることを伝えて、万が一、手に負えない時は数名の騎士で対応して、直ぐに父かリリベルを呼ぶようにと伝えた。
そしてリリベルは屋敷に戻る時に「サオリ、馬場から出ないでね。ここは街中だから人が多いの。あなたは美しいから出てはダメよ」と言い聞かせる。
サオリはバナナを3本食べて満足そうに鼻を鳴らした。
翌朝、食堂で朝食を食べていると、父が欠伸をしながら入って来た。
「オハヨー、リリ」
「お父様、ここ子爵家じゃないから。侯爵家だから」
「おっと!そうだな紳士モード入るわ」
「そんな器用な事になっているのか?ベルは」
「気にするな弟よ。帰るまでモード切るなよベル!」「分かったよ兄上」
父には聞きたい事が沢山だ。だが学院から帰ってからだ。
「お前、子爵領からどれぐらいで来たんだ?」「1日半だ」
危ない!飲んでいたオレンジジュースを吹き出しそうになった。
そうか確かに馬車でも最短2日半だと陛下は言っていた。サオリ単騎ならそれぐらいなんだろう。
「速いな」伯父も言葉を失っている。
そして一人分かってない4番目の伯父が「そんなに近いなら、もっと来ればいいのにぃ」とか言っている。
「子爵領は6頭立てで私の最新の馬車で5日かかる。普通は一週間だ。乗り合い馬車なら10日の距離だ」
あ、オレンジジュース吹いた。
「伯父様、飲物飲んでいる時に言っちゃ駄目だ」
「そうだな」
リリベルは学院に行く前にサオリの様子を見に行く。サオリはご機嫌に朝の散歩をしていた。サオリが厩舎を離れている間に他の馬を移している。とりあえず馬車に使わない予定の馬達は騎士が隣の伯爵家に移しているそうだ。本当にご迷惑をお掛けします。
「えぇっサオリが侯爵家に来たのか!」お昼時、ザック殿下が驚いている。
「正確には子爵領に来たサオリに乗って父が来たのですが」
「子爵にも驚くな」
「お陰で昨晩は夜中に起こされて寝不足です」
「サオリって北の陛下の馬ですか?確か王城に到着した時に暴れたとかいう?」他の役員達も興味深々だ。
「はい。今はまだ大人しくしてますが、誰かが犠牲になるのではと心配で」
「王城の馬場に連れて来るか?東の司書が帰るまでだから、どうせ数日だろう?」
「いえ。大神殿にお願いしてみようかと」
「そうか聖女殿やラント兄上なら対応できるかもな」
「父がちゃんと面倒見ているといいのですが…」
学院から侯爵家に戻ると父は出掛けていた。
「はあぁ!?サオリで出掛けたんですか!?」
「はい。3番目の弟君の伯爵様のお屋敷に大旦那様方と午後から向かわれました。明日、お戻りになると伺っております。お嬢様も行かれますか?」
きっと兄弟水入らずなんでしょうけど…。
「サオリが心配です。しかも伯爵家で暴れたら…準備しますので伯爵邸まで送って下さい」
「はい。では御者に馬車を出すよう言っておきます」
リリベルは制服を着替え終えると、急いで3番目の伯父の王都の屋敷に向かうのだった。
何事も起こっておりませんように!