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リリベルの方も、マティアス氏から絵本の試作ができたと連絡が来た。
試作の絵本は、表紙からマティアス氏らしい鮮やかな色彩だ。ページを捲ると、中も基の絵本と違い色彩豊かな内容となっている。文章も少し変えてあるようだ。絵に合わせて文章を配置してある。
これはもしかすると!?
「お気付きになりましたか?私がこの絵本で得たイメージとインスピレーションで絵を起こすと、文章が合わなくなるのでビクトルに文の編集をお願いしました」
やっぱりだ!
「またお二人の合作ですね!」
「そうなりましたね」と嬉しそうにマティアス氏が仰る。
でも絵を見てふと気付く。西の女神の瞳の色、エメラルドグリーンに近い色なんだけど…。
「マティアス氏、神様達の絵なんですけど」
「ああ。基の絵本の色彩は淡いパステル系で全て同系色に見えますよね。でも私の絵には全体的に同じ色の系統はあり得ないので、大体、いつもはイメージで配色を決めるんですけど、我が国の女神様の色は何にしようかと考えた時、私はリリベル嬢が浮かんだんですよ!」
「‥‥恐縮です」
「ハハハ驚かれましたよね?でも私にとっても、貴女は女神ですから」
「マティアス氏…やめて下さいぃ」リリベルは両手で顔を覆い隠す。
「そんなに謙遜されないで下さい。誰も女神様のお顔など分からないのですから、この絵だってただのイメージですよ」
まさか!まさかだ。恐るべし芸術家の直感。だがここで動揺してはいけない。
「そうですよね…でも素晴らしい絵本になりました。こちらで発行させて頂きます」
リリベルは侯爵夫人に直ぐかけ合って、試作通りで絵本の制作を依頼した。
「リリベルちゃん、東でも“美し過ぎる侍従”の本を宣伝してくれたんでしょ?あちらから問い合わせが入ったの。直ぐに第三弾まで注文されたわ。でも東で販売するのは13禁だけにしといたわ。あちらは東の神様が始動されたばかりなんでしょ?あまり邪な本は抑えておいた方がいいでしょ?」
さすが侯爵夫人だ。絶対その方がいいだろう。
「それとね、お義母様が仰っていたのだけど、先月で劇団の公演も千秋楽を迎えたでしょう?だから、ひとまず皆にボーナスを出して休暇をあげることにしたそうなの。でもね、東でも小説を販売するから3ヶ月後にまた、稽古を再開する予定だそうよ」
それは東でも遠征公演をするって事ですか?
「それが終わったら第二部の公演に取り掛からないとね〜って。まだ忙しいわね」
劇も侍従が死ぬまで公演するんだろうか?まあ劇団の皆さんの生活がかかっているので「頑張って下さい!」としか言いようがない。
昼食時、ザック殿下の学院のサロンで、間もなく伯父の絵本輸送隊が王都に到着するという話になった。
「会長、お茶をどうぞ」「ありがとうございます」
最近、マリアンヌ嬢が昼食時にお茶を淹れて下さるようになった。
公爵令嬢にこんな事させていいのだろうか?
「神殿や学院などの図書館には無償で配布するのか?」
「はいそうです。それで残りは神殿の売店や書店でも販売する事にしようかと」
「リリベル嬢、僕もその絵本、ぜひ一冊欲しいです」
「あ、僕も」皆から希望の声が上がる。
「本当ですか?でしたら学院の文具や書籍を扱う売店でも販売してもらいましょうか」
「だったら生徒会で1日限定とかで売店の一角で販売させてもらうのはどうでしょう?」
「そうですね。でしたら伯父が戻って来たら、どれぐらい学院での販売に回せるか確認してみます」
伯父はあと2日程で戻って来る。
4番目の伯父もこちらに戻って来るのは侯爵家の祖父母のお葬式の時振りじゃないだろうか。
お父様も会いにくればいいのに。