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 「王太子殿下、おはようございます。今朝は湖に霧が出ていて、また幻想的で美しいですよ」

 「ルト!そうか、それは見ないとな」

 王太子が部屋からテラスに出ると霧に包まれた山脈が美しい。朝日が登るにつれて霧も晴れていくが雲の間から差す光が更に風景を幻想的に見せている。


 「本当に美しい所だな子爵領は。だがルト、今日も朝から来なくても良かったんだぞ。お前は真面目だな。せっかく実家に帰ったのに。6年ぶりか?」

 「昨日は十分、家族ともゆっくり過ごせましたから。お顔を洗うお湯です。朝食は食堂でよろしいですか?お部屋でも可能との事ですが」

 「皆、きっと食堂に揃うであろう?私も食堂に向かうとする」

 「では、そのように支度を手伝います」


 食堂に向かうとアイザックと前侯爵が席に着いてモーニングティーを飲んでいた。私達は互いに挨拶を済ませ席に着くと、母が陛下と食堂に現れた。ちょうど廊下で出会ったそうだ。


 「やあ皆、おはよう。今朝の山脈も霧の中、実に美しいかったな。見れたか?」とテラスから見えた眺望の話になった。

 朝食のメニューは特に変わり映えするメニューはなく卵料理やパンにサラダ、チーズ、果物だったが、素材が良いのか、どれもすごく美味しく感じた。特にアップルワインと共に特産だと言われたリンゴジュースは甘くて美味しかった。


 「まだ春でもリンゴが食べれるのだな?」と言うと、山脈の麓に氷室があって冬の野菜や果物を保管していて夏近くまで食べる事ができるのだという。北では逆に食品を凍らせないように氷室を使うと陛下は説明して下さった。


 「そう言えば子爵領は治安も良くて、食事も美味しいから聖騎士達の人気の赴任先だとミネルバ殿が言っていたな」とアイザックが言うと

 「領地の神殿には今は2番目の弟のところの甥っ子が赴任してましたなぁ」

 と前侯爵が言う。

 「そう言えば、ミカエルとかいう聖騎士だったか?」

 「リリベル嬢はやはり人気者だな」と陛下がニヤリと笑いながら仰った。

 「男装中なのにな」とアイザックがポツリと言うと「確かにな」と皆に笑いが広がった。

 「さあ、今日はもう北に帰る。世話になったな」と北の国王陛下が食後に立ち上がる。


 リリベル達が、伯父の別荘に着くとサオリが馬車に繋がれたところだった。

 「そう言えばサオリはどうして南の冒険家の奥様の名前になったのですか?」と尋ねると

 「私は晩年の彼に会った事がある。彼の話を聞いて私も南の国に行ってジャングルとやらを見てみたいと思ったが、私が北を離れるのは今回の旅くらいが限界でな」

 「南への憧れですか?」

 「それもあるな。しかし彼は冒険が好き過ぎて国にはほとんど帰っていなかったそうだ。夫としては最低だろう?だが妻は夫がいないのを良い事に、多くの男達と出会いを楽しんでいたそうだ。美しい人だったそうだし彼女は彼女で楽しんでいたのだよ。そんな精力的なところがこの馬と似ていると思ってな」と言って陛下はワハハと笑う。聞くんじゃなかった…。


 王妃様、王太子殿下、ルト兄が大臣達の馬車で、また隠れ家の別荘に寄り、北の大臣達が乗ってきた王家の馬車と交換するそうだ。陛下と侍従さんはこのまま北に戻る。

 リリベルとザック殿下は伯父の馬車で王都に戻る事になった。先に王太子殿下と王妃様の乗った馬車が出た。

 陛下がその馬車を見送る。


 そして陛下の馬車も出発だ。

 「リリベル嬢、此度の西への旅はとても愉快であった。そなたのお陰だな。いつでも北に遊びに来ると良い。歓迎するぞ。できれば母にも会って欲しいな」

 「北の女神様に?」

 「そうだ。そなたを見れば東の神同様、母も喜びそうだ」

 「本物じゃないのに?」

 「西に逃げた王子は私の伯父だが、東の神によく似ていたそうだ。だから彼が婿に決まるのではないかと言われていた。だが彼は西の国王の就任10周年の式典に呼ばれたのをきっかけに西に渡り戻って来なかった」


 「彼は恋をしたのだと北に手紙を送ってきたそうだ。その相手は東の元王女で、すでに人妻だった。だが彼女は寂しい人で放っておけないのだと手紙にはあった」


 「私の父は兄を応援した「好きにしろ」と。そして母もそれを応援していた」

 「女神様も?」

 「そうだよ。母だって嫌がる男を婿に迎えるはずがない」

 「でも北の王子は西の女神に改宗したって!」

 「それは彼女が西で葬られたからだよ。別に良いんだよ。どの神を信仰したって。だって3人共兄妹だ。どの神を信仰しようと神にとっては兄妹を愛してくれる人間だ」


 「リリベル嬢、西の女神は何故他の神と違って姿を現さないのか?君はその理由に薄々気付いているだろう?」

 ザック殿下が驚いて私を見る。

 「だが安心するといい。君の魅力は君自身の魅力だ。では、またな」陛下はそう言ってサオリと共に去って行った。

 私の横には滂沱の涙を流す伯父が居た。

 北の王子の話は泣けるよね。


 でもリリベルはそれどころじゃなかった。


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