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北の陛下と西の王族ご一行は、伯父と共に別荘に戻って行った。
子爵家にはさすがに王家の方々をお迎えできるような部屋は無い。使用人もだ。なんせ自分達でお茶を淹れるぐらいだ。
ルト兄も王太子殿下と共に戻ろうとしたが、王太子殿下に「家族で過ごせ」と置いて行かれた。
でも伯父の別荘は子爵家から歩いても徒歩20分だ。必要なら兄は朝から王太子殿下の世話には行ける距離だ。
王族が去って行くと、婆様と爺様が居間に戻って来た。なかなか子爵家の連携プレーが素晴らしかった夕食時ではないだろうか。
伯父も、心を読む陛下もきっと分かっていただろうが。
「いや〜全く、リリベルは何てものを引き連れて来たんだ!」
「私のせいじゃないよ!私がいなくても陛下はここに来る気だったよ」
「そうよベルモント、彼は爺様の従兄弟なんでしょ?爺様に会いに来たのもあるけど、一度、子爵領も見ておきたかったのよ」
「北の王子の避難先だからでしょ。それに北の元外交官達はおかしな事を言っていたの。子爵家も王家の名残が十分あるって」
「もしかして北の準王家認定か?」「わー要らない!」
「要らないな」
「それよりもリリが女神に似てるって、ナルには聞いていたが、やはり本当だったのか」
「お父様も東の神に似てるしね」「若ければって言われたがな」
「根に持ってるの?」
「加齢は誰にでも訪れる。俺は今の姿の方が好きだ。それより今後だな…」
「ねぇ子爵家の呪いは解かなくてもいいよね?」
「リリ、今まで気付きもしなかった事だったからな。今更言われても。なあ婆様」
「そうね。私はピアノは得意だったのよ。淑女教育では楽器もあるから。でも子爵家にはピアノすら無かったから、音楽に興味のない家なんだってずっと思っていたわ」
「リリから貰ったオルゴール、すごく素敵な音色だったわ。自分で演奏できなくても、オルゴールや音楽再生機では問題無く聞けるもの。だから私も大丈夫よ」
「お母様、一応言っとくけど、お母様の子守歌、かなりおかしかったよ。でもそれでも歌ってくれてたのは嬉しかった」
「あら!それは気付いてなかったわ。私、普通に歌えているつもりだったみたい」と母はコロコロ笑って、兄に
「ルト、アイリーンさんとも上手くやっているの?赤ちゃんも元気?もう寝返りする頃かしら?」と聞いた。
「母さん、なかなか帰れなくてゴメンな。でも夏に二人を連れて帰るから。多分、僕が帰れなくても来るつもり満々だったよ。ライオット兄さんのとこと、エリオット兄さんのとこに誘われたって」
「やっぱり、あの別荘ができたら騒がしいな。爺様が植えた青薔薇に野生馬が近付くだろう?野生馬には注意するよう言っておかないとな」
「大丈夫だベルモント。薔薇が咲き終わったら、次のシーズンまで来ないさ」
「え?野生馬は薔薇の花を見に来ているって事か?爺様」
「リリ気付かなかったか?お前の持っている青薔薇が咲いた時、私には直ぐ分かったが」
「!」「爺様、もしかして青薔薇って…」
「多分、青薔薇同士、何か繋がっているんじゃないかな」
「じゃあ野生馬が青薔薇に近付くのは…?」
「もしかしたら北の仲間の呼び声を聞いたのかもしれんな」
やはり通信機器じゃん。なんて機能の植物なんだろう。だから陛下は嫁ぐ妹に青薔薇を持たせたんだ。心配だったから。
王妃様もご存知だったのだろうけど、青薔薇だけで放って置かれて寂しかったのかな。
あんなにお兄ちゃん子だったんだものね。