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「お祖父様〜!」
リリベルが青薔薇の世話をする祖父の元に駆けつけると
「おや?リリベルか?髪を切るには、まだ寒くないかい?」
「タンクトップのお祖父様に言われてもね」
「そうか。ほらお前から預かった薔薇達、ちゃんと世話したぞ。もう少ししたら、ここにも慣れて根付くだろう」
「ありがとうお祖父様、薔薇は、まだ咲かないの?」
「この子達が来た時は咲きかけていたがな。ここは涼しいだろ?だから、また少し寝ている」
「お祖父様、起こさない方がいい?」「起こしたいのかい?」
「青薔薇の本来の持ち主がいらしているの」と爺様に陛下ご一行を視線で示す。陛下達もリリベルと一緒に爺様の元に青薔薇を見にやって来ていた。
「そうか。あの馬らも、ずっと開花を待っていたからな〜。全部は無理だが起きそうな子だけだぞ」と言って、爺様は最近まで王都にあった薔薇なのだろう。いくつかの青薔薇を起こしてくれた。
「おお見事だな〜。初めましてだな前子爵。私は君の従兄弟になるようだ。私の父が、君の父の弟にあたるのだよ」
「私の父と言うと北から逃げたという?」
「そうだ。北から逃げた王子だよ。私の伯父になるからな」
「そうか〜あなたも逃げてきたのか?」
「逃げてきたのなら、ここに置いてくれるかい?」
「いいよ。子爵家は北の者を拒まない。だが平民になるぞ」
「それはいいな。楽しそうだ」
何て話をしているの!陛下が平民になるのは知ったこっちゃないが、子爵領には正直来て欲しくない。厄介でしかない。
「だが孫令嬢には歓迎されてないようだぞ?」また心を読まれた!
「仕方ないリリは正直者だからな」「ええ?仕方ないの?」
「ああ、ほらっあの子達が来た!」
森の方から子爵領の野生馬が何頭かやって来る。
「子爵領の野生馬達か。ああ本当に無事に残っていたんだな」
「ここに青薔薇を植えたら、薔薇を見に来るようになった。」
「そうか、そうか。そう言えばサオリは厩舎に入れただろうな?」
北の陛下が侍従に確認する。
「はい、陛下。御者がちゃんと」
「陛下?」あ、爺様が気付いた。
「そうか王子の親戚なら王もいるか」と言いながら爺様は子爵家の方に戻って行ってしまった。王太子殿下が、もうずっと驚き顔で固まっているが、気持ちは分かる。
ザック殿下が兄の肩を慰めるように叩いている。ザック殿下には驚き耐性でも付いているのだろうか?
北の陛下は爺様の後ろ姿を見送りながら
「ここの白馬達は自由で良いな。サオリを放てば二度と戻って来ないだろう。サオリ好みの馬が多過ぎる」
「サオリ?サオリとは南の国の名前では?」と伯父が言うと
「そうだ。ノースポール探検記を知っているか?探検家であり作者である彼の妻がサオリという名前だったそうだ」
「えっ?サオリって牝馬なの?」「そうだが?」と仰り、陛下はなぜか子爵邸の方に向かって行く。
「陛下?どちらに?」と伯父が聞いたが、陛下は逆に「彼はどこに?」とリリベルに聞いてきたので「多分、畑か林に」と言うと「わも、えぐ」と爺様を追っかけて行ってしまった。
王妃様には途中の離れの休憩室でお待ちいただいた。
「リリ、爺様はどこ行った?」「うん。多分こっち」
リリベル達は林の奥、山手の方に上がって行く。なかなかの距離がありそうなので、伯父と王太子殿下は王妃様の元に引き返して行った。
陛下と侍従さんと、護衛騎士、ザック殿下、リリベル、ルト兄で爺様を追う。
「リリ?もしかして沢かな?」「兄さん、多分」「沢?」
「そう。この時期、虹色マスが遡上してくるの。多分、今日の夕飯に虹色マスを獲りに行ったんじゃないかと。あっ!爺様いたいた!」
沢の上流で爺様がクマたちとマスを獲っていた。
「リリベル嬢、クマがいるぞ!」
「うん。皆は危ないからここにいて。人が多いとクマが興奮するから」
「おおリリベル嬢。頑張ってきてくれ。私もここで見学してる」と陛下が岩場に腰かける。陛下には護衛も居るから大丈夫だろう。
リリベルは爺様のいる上流まで登って行く。ルト兄も一緒に来てくれる。
「爺様」「リリ、卵を孕んだ魚を狙え」
「分かった。兄ちゃんお願い!」「ああ」二人で靴を脱ぎ、ズボンの裾を膝まで捲って沢に入る。
リリベルと兄で魚を追い込み、爺様が捕まえカゴに入れる。三人のチームプレイだ。
「上手いものだなぁ」陛下が仰る。
何か、いつもこんな流れだなとアイザックは思った。