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翌日、予定されていた北の国王陛下との貿易協定に関する議会は翌日に持ち越された。
なぜなら陛下は午前中は二日酔いの為、起き上がれず、午後は妹である王妃と過ごすと言い出したからだ。何でも起きたら胸元に“帰る前に王妃との時間を作ること!”とメモ紙が入っていたそうだ。
リリベル嬢の仕業だろうか?!
しかし北の国の大臣達も実は今夜頃、到着するらしい。
北の王は自分だけ馬車をすっ飛ばして来たそうだ。大臣達の馬車も十分速度が早いが、国王の馬車は更に1日半早く到着した。
サオリが凄いが、それだけ飛ばせば、そりゃあ気が立って暴れても仕方ないだろう。
北の一行の人数の少なさに驚いたが、単に陛下の馬車のスピードに付いて来れなかったのと、陛下も彼らを待つ事なく置いて来てしまったのだ。
どうりで陛下の連れは彼の侍従二人と護衛数名だけだったはずだ。
我々は陛下が女神の嫡子であるから、てっきり神に近い存在なのだと思ってしまった。しかし彼もやはり人間で、お酒にも酔うし二日酔いだってしたのだ。
あと護衛もよく付いて来れたなと思ったら、やはりサオリに近いレベルの馬らしい。
北の騎士は白馬に乗れる事はエリート騎士の証なのだそうだ。
子爵が坊主にした彼らも実はエリートだったんだろう。その彼らを聖騎士団と王国騎士団で囲んでしまったらしいから、彼らはほぼ無抵抗で捕まったと聞いている。
彼らは結局、誤解だと言いながらも大人しく白馬を子爵に渡したのは、子爵領で後ろめたい事をやる気だったからだろう。だから自分達の主人には白馬を渡しに行ったのに、西の騎士に捕まり坊主にされたと逆に被害を訴えたのかもしれない。
だが北の王は嘘を見抜いて彼らの坊主姿を逆に笑った。
北の王は人間味があって楽しい人だが、やはり王だ。そして女神の嫡子なんだ。きっと国王を欺く事など決してできないだろうに。
その日の午後、母上はまるで童心に帰ったように陛下と過ごされていた。公爵が側にいないのは初めての事ではないだろうか?
女神から産まれる子供の容姿は、皆が白銀の髪に水色の瞳らしい。
女神は家族以外の人の前に姿を見せる事は無いそうだが、恐らく、白銀の髪に同じ水色の瞳なんだろうと、唯一、北に行った事のある父上が仰っていた。
だが、その色は子から孫には引き継がれないそうで、代わりに金髪碧眼が産まれるそうだ。それは彼女が夫に金髪碧眼を選ぶからだそうだ。
なんか俺にも分かってきた。
恐らくリリベル嬢はすでに、その答えに辿り着いているはずなんだろうけど、女神が金髪碧眼を選ぶ理由は、水色の瞳の弟とエメラルドグリーンの瞳の妹なんだ!
その夜、無事に北の大臣達は到着して、次の日の午後から予定通り議会は開かれた。もちろん俺も参加させてもらった。
義姉のように意見はまだ言えないが、後ろで見ているだけでも勉強になる。貿易も国交も以前同様、双方折り合いの良いところで議決され、これまで通りの物資の流通が可能となり、皆が安心しているのが分かった。
北の陛下は明日は我が国の大神殿を訪れるそうだ。
北の女神に代わり、妹神に挨拶したいのと、自分の力でも破る事ができなかった防御壁の魔法を張った聖女殿に挨拶をしたいのだと仰せになったそうだ。
彼女も兄の侍従であるベルトルト伯や、リリベル嬢と同じ子爵家出身で三番目の子であると伝えると「だはんでが〜」と納得されていた。
大神殿には王太子である兄が陛下に付き添った。
陛下は大神官達や聖女殿に挨拶された後、女神像に祈りを捧げ、聖女殿に
「やっぱす兄っちゃと、いもうどの方さ、めんこいなぁ」
と言って城に戻って来たそうだ。兄上は何だかドッと疲れてらっしゃった。
北の陛下はどうやら“緑色のベル”の方がお好みらしい。
その夜は再び北の大臣らを交えての歓迎会になった。初日は陛下しかおられなかったしな。
北の陛下はその宴会に再びリリベル嬢の参加を希望され、呼ばれたリリベル嬢は“来たくありませんでした”と書かれた顔を隠す事なくやって来た。
そうだよな。申し訳ない。また王城の温室に連れて行って、好きなだけ南国フルーツの木と戯れさせてあげよう。
また俺の昨年辺りの礼服を貸そうとしたが、兄の一昨年辺りの礼服を借りて来たそうだ。
あいつ…リリベル嬢の兄は、あんまり身長伸びてないんだな。
今日は陛下を飲ませ過ぎないように注意しないとな。
リリベル嬢も聞きたい事は聞き出したはずだ。
和やかに北と西、和気あいあいと宴会も終わるはずだったのだが、この席で北の国王陛下は、またとんでもない事を暴露した。
きっとリリベル嬢は隠しておきたい秘密だったろうに。
俺はリリベル嬢が陛下にグーパンしないように抑えておくべきか?!
「だはんでが〜」だからか〜。
「やっぱす兄っちゃと、いもうどの方さ、めんこいなぁ」やはり兄と妹の方が可愛いな。