157
「いや〜国王、妹よ久すぶりっ。元気だが?」
「兄っちゃこそ元気だが?」王妃様の北のお言葉、衝撃的だ!
「何でいぎなり、この国さ来だのぉ?」皆、唖然とやり取りを聞いている。
北の国の陛下の容姿は白銀の髪にアイスブルーの瞳だ。水色の瞳なんだけど、アイスブルーという表現の方が合っている。
その時、外で騒ぎが起こった。
宰相閣下が「何事だ?」と言うと、駆け付けた近衛騎士が
「北の馬車の馬達が!」
「ああ済まないな。あれは普通の馬ではないからな」
北の国王陛下、普通に話される方が違和感が無い。
「御者がいただろ?」「それが…少し離れられて…」
「あ〜…」「私が参ります!」
野生馬ならリリベルは慣れている。
扉の外に向かって走って行く背中に「任せたぞ!少年っ」と声が掛かった。
「リリベル嬢!」
ザック殿下が後ろから追い付いて声を掛けてきた。
殿下の赤い髪は馬達を逆に興奮させるかもしれないな。
「殿下、野菜を!調理場でも菜園でも構いません。ニンジンとかレタス!セロリでもいい。緑の濃い葉物はダメです。甘い果物か野菜を!」
「分かった直ぐ持って来る」「帽子!赤い髪を隠せる帽子も!」
「了解」リリベルは騒ぎの方に走って行く。
来賓用の馬車止めに、まだ馬車に繋がれたままの馬が暴れている。4頭立てだが、先頭の体格の一番立派な馬が興奮しており、他の馬にも伝染している。
馬は長距離を短時間で移動して来て疲れている。きっとかなり気が立っているんだ。とにかく落ち着かせないといけないだろう。
恐らくリーダー格の馬が落ち着けば他も落ち着くはずだ。
王宮の厩舎の職員や御者が、暴れる馬を囲んで走り出さないように頑張っている。早く馬車から馬を離さないと馬車ごと暴走したら危ないだろう。
リリベルは「馬を馬車から離して!」と叫ぶ。だが馬が単体で暴れる方が危ないと周囲は考えているのだろう。それに馬が暴れて、馬と馬車を繋ぐ金具にも近付けずにいる。
リリベルは土魔法で馬の足を固定する。その間に馬を馬車の金具から外す。しかし身軽になった馬は、ここぞとばかり暴れようとして土魔法を破ってしまった。
さすがスネイプニルだ!リリベルは周囲の植物の助けを借りて馬の動きを抑えて馬に呼び掛ける。
「落ち着いてスネイプニル!私を見て」リリベルは馬の首にしがみ付いて何とか目を合わせようとする。
その時「サオリだ!その馬の名前はサオリだ」と声がした。
サオリ…今はネーミングはどうでもいいわ。
「サオリっ私を見て!」
名前を呼ぶと反応して馬はリリベルを見た。
馬の目が言っている「お前!?誰だ?でも知ってる人?」
リリベルは動きを弱めた馬の首を撫でながら「サオリ、ヨシヨシ良い子だ落ち着いて」と声をかける。
「疲れてるんだよね。知らない人ばかりで嫌だよね。お前達は人見知りだし」となだめ続ける。
もう植物達の助けは要らないだろうと、巻き付いた植物達に戻ってもらう。
サオリは自由になって一瞬暴れようとしたが、再びリリベルを睨むように見てくる。
「サオリ、大人しくしてくれるなら回復魔法をかけてあげる」
サオリは瞬時に動きを止めた。
気をつけ?まさかね?でもサオリは直立不動でリリベルを待っている。リリベルは面白くなって「フフッ」と笑ってサオリに回復魔法をかけてあげる。するとサオリはご機嫌になって「ブヒヒン」いな鳴いた。
「リリベル嬢!ゴメン遅くなって」と帽子を被ったザック殿下が野菜の入ったカゴを持って走って来た。
リリベルはカゴのニンジンを手に取り「甘くなれ」と念じてサオリにあげる。サオリはご機嫌でニンジンを食べ、リリベルにもう一個とねだってくる。
他の馬達も馬車から外されたのかリリベルを囲んで野菜をねだる。リリベルが馬達に野菜をあげていると
「見事だったな〜少年」と拍手をしながら、北の王がリリベル達の方に歩いて来る。
「少年は貴族だろう?あれ?」
陛下はリリベルの顔を覗き込んで固まっている。
「瞳がエメラルドグリーンだ。金髪だし。この国の王族か?いや、もしかしたら、こちらに逃げ込んだ王子の子孫だろ?だからサオリも心を許したか?まあ回復魔法が一番効いたみたいだが」と仰った。
一発でバレた!さすが女神の血筋の王様だ。だが私は少年ではない。一応挨拶しておくかと思ったら
「北の国王陛下、私はこの国の第三王子でアイザックと申します。こちらは、このような格好ですが子爵令嬢です」と先に殿下が隣で仰った。
「子爵家のリリベルと申します。第三王子殿下の仰る通り、性別は女です。そして陛下の仰る通り曽祖父が北の王子殿下にあたります」と頭を下げて礼を取る。
しかし、その時、帽子を脱いで挨拶をしたザック殿下の赤髪にサオリが反応して、飛びかかろうとしてきた。しかしサクッと陛下に止められて、北の御者らに厩舎の方に連行されていたが、やっぱりザック殿下の赤い髪は彼らを興奮させるみたいだ。
闘牛と一緒みたいだな。